解決策をアドバイスしても、Aさんが納得しなかった理由は……
こうして家族で在宅介護を行った末に、親の死を迎えたビジネスケアラーたちが感じるのは、悲しみよりもむしろ安堵感です。長年の介護生活を経て、彼らは人生をやり直すことの難しさと、長い期間にわたる自己犠牲の日々を振り返り、亡くなった親に対するネガティブな気持ちを抱えながら生きていくことになるのです。これは悲しいことです。親への感謝や報恩の思いから始まった介護が、最終的には「親のせいで……」という恨みに変わることを意味します。お墓参りをしても、墓前で愚痴をこぼすようになってしまっては、天国の親御さんも浮かばれません。
東大卒のAさんのケースは、この問題の典型例です。私はAさんに、最初の面談のときから伝えてきました。
・配偶者(妻)に義母の介護をする義務はない
・「お金がないから施設に入れない」ということはない。方法はある
・親は、自分のことで子どもの仕事や家庭に支障をきたすことを望んでいない
・ご自身の人生を取り戻してほしいし、配偶者にもそうしてあげてほしい
半年以上にわたる全5回の面談で、私が伝えたことは一貫して同じです。さらにAさんの母親の状態から考えると、個室で過ごさせるよりも、スタッフの出入りが頻繁な(特別養護老人ホーム、もしくは介護老人保健施設の)多床室がベターとも伝えていました。
公的施設だけでなく、最近は民間の施設でも生活保護受給者を受け入れるところが増えてきた、という話もしたのですが、今思うと、Aさん本人から経済事情について言及される前に余計なことを言ってしまったと、反省しています。高学歴でプライドが高い彼にしてみれば、「生活保護」はNGワード、禁句だったのです。