「施設より在宅介護のほうが安い」は間違い

 ビジネスケアラーの人たちの中は、Aさんと似た感情を持つ人が多くいます。「親を扶養から外し、生活保護を受給すれば施設に入れられますよ」とアドバイスしても、心の整理がつかず、仕事と家庭、そして介護のバランスを取ろうと苦悩しながら、在宅介護を続けています。

 一方、親の側も、「施設はお金がかかるから」と考え、娘や息子の家で介護を受け続けます。実際には、子どもたちが買い物や食事、掃除洗濯、見守りといったコスト(お金や時間)を肩代わりしてくれているので、見かけ上、施設に入るよりも安くなっているに過ぎません。家事代行サービスを利用すれば、月額約10万円はかかるでしょう。

 しかし、親の介護状況が悪化したり、認知症の症状が進んでいったりすると、子どもたちの感情は徐々にネガティブなものに変わっていきます。介護はいつ終わるかが分からない上、終結に至るまで7~8年かかるのが当たり前。しかも出産・育児と異なり、どんどん負担は重くなっていくのです。その間、老いて壊れていく親と閉じられた空間で時間を共有し続けるのですから、当初は親孝行と思っていた気持ちに変化が生じるのも自然なことです。