東大卒ビジネスエリートからの相談
東京大学を卒業し、ビジネス界で活躍してきた60歳の男性、Aさん。学歴が高いことで自己評価が高い彼は、「自分は人とは違う、まだまだデキる」と思っているタイプです。東大を卒業した後、官僚や政治家ではなく、一部上場企業でのキャリアを歩んできた彼は、出世競争に敗れ、年齢とともに困難な状況に直面していました。
Aさんからの相談は、解決に至るまでにかなりの時間を要しました。半年くらいの間に、面談を5回も行いました。というのは、彼にとって都合が悪い事実を小出しにしてくるのです。最初から全て話してくれればいいのに……とも思いましたが、彼が心を整理するためには、それだけの時間が必要だったということなのでしょう。
Aさんの92歳の母親はアルツハイマー型認知症を患い、第二フェーズに突入していました。第二フェーズとは、初期の認知障害フェーズから、徘徊(はいかい)や暴言、不潔行為といった周辺症状(問題行動)へ移行した状態です。
最初に相談を受けたとき、Aさんは、5年以上介護を続けている64歳の妻から離婚を切り出されたと言っていました。半年ほどたち、最終的に義母の介護に限界を覚えた妻は、実家へ帰ってしまいました。八方塞がりになった彼は、ようやく覚悟を決めることができました。プライドの高い彼は、「最後まで母の面倒を見ることができない嫌悪感」「母親を施設に預けることへの罪悪感」「親族や近隣住民への負い目」「福祉へのスティグマ(偏見、蔑視)」に苦しみ、これらの感情を消化するのに半年以上の時間を要したということでしょう。