「お金がないから在宅介護しかない」は誤解

 しこたま涙を流した後、Aさんはつき物が落ちたように、穏やかな表情と口調になりました。人はこんなにも変わるんだ、とちょっと感動したほどです。「東大卒も人の子だな」なんて思ってしまったのは、私の東大コンプレックスでしょうか……。

 涙を流すことで、心にたまっていた澱(おり)のような感情が解放され、気持ちが浄化されることを「カタルシス」と呼んだのは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスです。東大卒ビジネスエリートの大号泣を目の当たりにして、2000年以上前にこのことを『悲劇論』の中で書き残したアリストテレスは、途方もなく偉大な人物だ……などと考えていたのでした。

 冒頭に書いたとおり、ビジネスケアラーはどんどん増えています。ビジネスケアラーの皆さんに伝えたいのは、「自分で介護を行う以外にも選択肢がある」ということです。真の親孝行とは、仕事や家庭に支障をきたしながら、自己犠牲の下で親の介護をすることではありません。仕事を頑張って、幸せな家庭を築いて、毎日を笑顔で過ごしてほしい。心からそう願っています。