いま、管理職やリーダーにとって、「チームマネジメント」のノウハウを学ぶ必要性が高まっています。なぜなら、世の中のトレンドの移り変わりが激しくなり、しかも転職が珍しくなくなったことで、「成果を出し続けるチームづくり」の難易度がかつてなく増しているからです。
そこで今回は、1年でチームの業績を13倍に急上昇させた「組織の変革メソッド」を伝授する『チームX』の著者・木下勝寿さんにご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様をダイジェストでお届けいたします。(構成/根本隼)
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どんな企業にも起きうる「5つの企業組織病」
木下勝寿 最盛期には1000人/日も新規集客できていたチームが、160人/日しか集客できなくなってしまったのはなぜでしょうか。同業他社との競争激化という外部要因もゼロではありませんが、大半が「内部要因」だったと私は考えています。
当時の北の達人コーポレーション(以下、当社)は、「企業組織病」にかかっていたのです。
企業組織病とは、大半の構成メンバー、つまり組織全体がかかってしまうビジネス上の病のことです。これには、有能な人間さえも思考停止させてしまうほどの破壊力があります。
企業によって様々な「症状」がありますが、病の種類としては大きく5つに分けられます。ズバリ、「職務定義の刷り込み誤認」「お手本依存症」「職務の矮小化現象」「数字万能病」「フォーマット過信病」です。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
1)職務定義の刷り込み誤認
⇒職務の定義を、実際より「狭い範囲」で認識し、刷り込まれてしまうこと
これは、他の病の源となりうるもので、多くの会社で起きていると思います。
「刷り込み」というのは、鳥のひなが、生まれて初めて見たものを自分の親だと認識し、その認識が一生変わらない現象です。この現象が、仕事でも同様にして起こるのです。
たとえば、「集客」という職務があります。集客の職務定義は文字通り「顧客を集めること」であり、その達成手段として、広告の活用・検索エンジン対策・SNSでのファンづくりなどがあります。
当社でははじめに様々な手段をトライしたところ、「広告の活用」が最も効率的だという結論になったため、「集客」という職務では、広告を活用することがメインになりました。
しかし、その後に集客担当になった人は、最初から広告のみを活用して集客をするので、「集客=顧客を集めること」ではなく、「集客=広告を使って顧客を集めること」だと誤認します。
そうすると、もし広告の集客力が下がったら、本来は「検索エンジン対策」など別の方法を模索するべきなのですが、「集客=広告を使う仕事」という認識が刷り込まれているために、広告以外の手段での集客は「自分の担当ではない」と思い込んでしまうのです。
これは本人の責任ではなく、教育や引き継ぎがしっかり行き届いていない組織で発生することが多いです。
刷り込まれた認識を後で変えるのは難しいので、新しい仕事を教えるときは、「仕事の目標」や個別業務の位置づけなどをきっちり説明することが重要です。
当社の場合、業績の急拡大に合わせて採用を積極的に行なったのですが、研修・教育システムが不十分だったために、業務に必要なスキルが身につかないまま配属させてしまったことに原因がありました。
2)お手本依存症
⇒正解例の「お手本」がないと、何もできなくなってしまう状態
商品や広告は、本来ユーザーのニーズや感性をもとにして「ゼロからイチ」をつくるものです。しかし、すでに成功している事例をお手本にしてつくる癖がつくと、自分の力で「ゼロからイチ」を生み出せなくなります。
たとえばWebマーケティングでは、ユーザーが広告を見てから購入するまでの各ステップが、データとして全て記録されます。つまり、先行事例のデータが豊富にあるので、成功する確率の高い広告をつくりたいときに、つい成功例を見ながら作業してしまうのです。
しかも、それによって成果が出ると、さらにその傾向に拍車がかかります。
当社でも、この「お手本依存症」が蔓延した結果、似たような広告ばかりが再生産されました。そして、お手本の形式が陳腐化し、「全く新しい広告」をつくる必要が出たときに、クリエイティブな仕事が誰にもできなくなってしまいました。
この現象は、ビジネスの栄枯盛衰と似ています。どんな会社も、最初はユーザー目線で商品を開発します。そして、それがヒットすると、次の商品はユーザー目線だけでなく、最初の商品が当たった要因も参考にして開発するようになります。
これを繰り返すうち、10番目ぐらいの商品になると、ユーザーのことをあまり考えず、過去のヒット作だけを見ながら商品をつくってしまうのです。
この現象が一企業だけでなく、競合企業どうしでも起きると、ユーザーのニーズに応える力が業界全体で落ちていきます。