いま、管理職やリーダーにとって、「チームマネジメント」のノウハウを学ぶ必要性が高まっています。なぜなら、世の中のトレンドの移り変わりが激しくなり、しかも転職が珍しくなくなったことで、「成果を出し続けるチームづくり」の難易度がかつてなく増しているからです。
そこで今回は、1年でチームの業績を13倍に急上昇させた「組織の変革メソッド」を伝授する『チームX』の著者・木下勝寿さんにご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の模様をダイジェストでお届けいたします。(構成/根本隼)
木下勝寿 前回の記事で解説した、現代の組織が抱えがちな「企業組織病」を治すために有効な、「チームの変革=チームX」のポイントが5つあります。
1)KPIの設定でPDCAを回し、正しいKPIにたどり着くこと
これは、最初に作ったKPIに、全力投球しすぎてはいけないということです。KPIを設定すると、各メンバーのもとで部分最適化が加速しますが、設定そのものが間違っていると、企業全体が誤った方向に進んでしまうからです。
なので、KPIに問題がないかどうか注視しながら、「部分最適」を積み上げていくと「全体最適」になる設計を心がけないといけません。
当社では、広告運用チームのKPIを「集客人数」にしたところ、広告費がどんどん投入されました。その結果、集客人数は伸びたのですが、費用対効果の悪い広告もたくさんつくられ、多額の赤字が出てしまいました。
なので、KPIを改善し、CPO(※)が黒字の範囲内での集客人数のみをカウントし、赤字を出して集客した人数はそこから差し引く形に変更したのです。
これにより、メンバー全員が利益とのバランスを考えながら集客の最大化を目指すようになり、「メンバーの部分最適→会社の全体最適」という道筋をつくることができました。
なお、KPIを設定する際は、「自社の価値観との整合性」も重要なポイントです。
たとえば、KPIが「届け率」のA社と、KPIが「届け数」のB社という2つの宅配業者があるとしましょう。
A社では100件中100件届けると、届け率100%で最高評価になります。しかし、B社のKPIは届け数なので、100件中100件届けるよりも、130件中110件届ける方が評価が高くなります。
この状況で、もし届け先が不在だったとき、社員の行動はどうなるでしょうか。A社の社員は受け取ってもらえるまで何度もアプローチするはずですし、B社の社員はその荷物を後回しにして、次の荷物を別の所に届けようとするでしょう。
つまり、KPIが違う両社では、受取人が不在時の行動が全く異なるのです。
顧客側からすると、A社には確実に届く「安心感」があります。B社は、同じ時間に届ける数が多い分、スケールメリットによって「価格の安さ」が実現できます。どちらがよいか、というのは顧客が判断する問題です。
KPIによって社員の動きが変わるので、自社が大切にしたい価値観を反映したKPIを設定しなければいけません。
2)教育の仕組みを整える
このポイントで大事なのは、2人以上のトッププレーヤーをそろえることです。仕事ができない人が指導しても、仕事ができる人は育ちません。かといって、仕事ができる人を教育担当に回すと、目先の成果が落ちるというジレンマがあります。
なので、1つのチームにトッププレーヤーを最低でも2人そろえて、片方がプレーヤーとして短期的な成果を出しつつ、もう1人が教育担当として、チーム全体の能力を底上げしないといけないのです。
3)共通言語化=暗黙知を「形式知化」すること
「暗黙知」とは、社内で言語化されていない、個人の経験やカンに基づいたノウハウやスキルです。一方で、「形式知」とは、言葉や図解によって、誰が見ても同じように認識できるマニュアル化された知識・情報です。
特定のメンバーだけが持っている暗黙知はブラックボックスになるので、チームとして有効活用することができません。これでは、チーム全体でのスキルアップは困難です。
そこで、暗黙知と形式知を橋渡しをするために必要なのが「共通言語化」です。これはチームXのポイントの中でも特に重要で、伝えたい内容をひと言で共有することができ、社内の知識レベルが一気に上がります。
前回の記事で紹介した「企業組織病」の5つの病名も、暗黙知を形式知化するために、私があえてつくり出した共通言語でした。