平成28(2016)~令和2(2020)年に給食関連施設で発生した食中毒事件のうち、原因別の発生件数はノロウイルスがもっとも多い36%(97件)、次いでウエルシュ菌が17%(44件)となっています。

 そのため、「三原則」に加えて4つめの「持ち込まない」対策も重要となっています。給食従事者が給食室に細菌やウイルスを持ち込まないよう、健康状態の把握と管理を徹底することで、食中毒を防ごうとしているのです。

 食中毒事件への反省を踏まえて、給食を管轄する組織では衛生管理の大幅な見直しが絶えず図られてきました。そこで取り入れられたのが、宇宙食に使われている衛生管理システムです。食中毒になっても病院に搬送することが不可能な宇宙空間で食べるものなので、宇宙食は徹底した衛生管理のもとで作られています。

 アメリカ航空宇宙局(NASA)がアポロ計画で人類を月に送ろうとした際に「絶対に安全な食べ物」を作るために開発された、HACCP(ハサップ)というシステムがあります。「Hazard(危害要因)Analysis(分析)and Critical(重要)Control(管理)Point(点)」の略称です。現在、世界でスタンダードとなっている衛生管理の手法です。

 原材料の受け入れから製造までの全工程で、危害発生につながるポイントを監視・記録することで、食の安全性を確保する仕組みです。

 平成30(2018)年6月、「食品衛生法」の改正法案が可決され、令和2(2020)年の6月から食品を扱う全事業者に対してHACCPによる衛生管理の義務化が開始されました。学校給食施設も、HACCPに沿った衛生管理を実施しなければなりません(1回の提供食数が20食程度未満の施設は対象外)。給食の衛生管理体制は今や宇宙食レベルというわけです。

 HACCPに基づいて作られたのが、厚生省(当時)による「大量調理施設衛生管理マニュアル」です。非常に厳密なルールですが、食中毒を決して起こさないために、栄養士も調理員もこのマニュアルの遵守を第一に心がけています。

 かつては「揚げ物はきつね色になったらOK」というように、調理員の勘と経験で調理していた部分があります。現在では必ず中心温度計を使い、中心温度が75℃を1分以上保っているかを計測します。食中毒の原因物質を加熱処理で退治しているのです。とろとろ半熟卵のような料理が給食で提供できないのは、こういうわけです。