この事件以降、食材の取り扱いについての意識が高まりましたが、食中毒事件は食材が原因となることばかりではなく、調理器具の洗浄や消毒が不十分なために起きてしまうこともあります。

 平成23(2011)年2月、北海道岩見沢市の給食センターで調理されたサラダを食べた1522人(教職員81名を含む)が、腹痛、下痢、発熱などの食中毒の症状を訴えました。

 原因は食材ではなく、サラダを混ぜるのに使った攪拌機能付き回転釡の、攪拌羽根が付いているシャフト部分の洗浄・消毒が不十分であったために発生したと考えられています。

食中毒発生のメカニズムを踏まえた
究極の衛生管理体制「HACCP」とは

 食中毒とは、食品や水によって引き起こされる急性胃腸炎や神経障害などの中毒症の総称です。「食品衛生法」では食中毒の原因として、細菌やその産物(毒素)、ウイルス、動植物の自然毒、化学物質などが挙げられています。

 細菌は細胞分裂して増殖し、大腸菌であれば20分ほどで倍になるので、食品中で増殖すると1個の菌が10時間で10億個にもなります。75℃での1分ほどの加熱で死滅するものの、ウエルシュ菌やセレウス菌などは100℃の加熱でも長時間生存できます。

 一方ウイルスは、感染した細胞内でしか増殖できないので、食品中では増殖しません。ウイルスのついたものを人間が食べることによって、人間の体内で増殖します。食中毒の原因となるものにはノロウイルスなどがあり、冬季に多く発生し、食中毒の集団発生を引き起こします。加熱処理によって感染能力を消す(不活化する)ことが必要です。

 かつては給食による食中毒事件の原因は細菌が多く、その予防として「食中毒予防の三原則」が重視されてきました。「付けない・増やさない・やっつける」で、病原体による汚染が発生しないよう、調理者の手指等を清潔にすること(付けない)。食品は低温や冷蔵で保存し(増やさない)、十分に加熱し、そして、調理済みの食品はすみやかに食べること(やっつける)。こうすることで、食品中の病原体に増殖する余地を与えないという対策です。

 ところが昨今の食中毒はO-157やサルモネラ・エンテリティディスのように少量の菌で発症するものや、ノロウイルスのように、食品中では増えずに人の腸管内で増えて発症したりするものが増えました。