「セクシー田中さん」問題、もはや出版界全体で取り組むべき真摯な原因究明策とは小学館の現場の編集者たちの声明は心を打った。作家の権利を、この機に出版界全体で議論すべきではないだろうか Photo:PIXTA

小学館の編集者が声明
評価できるが違和感も

 文春一筋で出版人生を終えた私は、コミックやアニメのことはほとんどわかりません。ですから、急逝した漫画家・芦原妃名子さんのことも、ドラマ化に伴うトラブルが死因になったのではと疑われる彼女の代表作『セクシー田中さん』についても、論評する資格はありません。

 ただ、「出版社経営の経験者として今回の事件をどう見ているか」という質問をよく受けるので、出版社の実情を説明すると共に、自分なりの考えを述べたいと思います。

 当初、関係者が短いコメントを出しただけだったこの問題に、2月8日、小学館の現場の編集者たちが、現状を説明する声明を出したことは評価できます。ただ、その声明の最後の一文「寂しいです。先生」には、私は強い違和感を覚えました(詳しい声明の内容については、小学館のHPでご覧ください)。

「原作者を守るのが編集者である」という趣旨の宣言をしたのに、その原作者を映像化によるトラブルで自殺させてしまった可能性が疑われているわけですから、「先生、申し訳ありませんでした」と言うべきではなかったでしょうか。

 今回の悲劇は、いつかは起こると予想できたものだったと私は思っています。だからこそ、大規模な再発防止の取り組みを提案したいと思います。

 出版界は昔とは違い、権利関係が極めて複雑になっているからです。映像化、あるいは翻訳化、デジタル化など、今、出版社と作家の関係には複雑な契約関係が生じており、出版社にとっても筆者にとっても、ビジネスとして重要な意味を持つ時代になっていることは断言できます。

 一昔前は、出版界といえば口約束の世界でした。本の刷り部数も、定価も、印税も、発売時期も出版社がほとんど決めていました。また、映像化については出版社が仲介することが普通で、映像のことを知らない作家を支えていました。

 翻訳については、かつて日本の小説はほとんど翻訳のニーズがなかったのですが、近年は中国や韓国からかなりの頻度で翻訳のオファーがくるので、その際は出版社が仲介するという契約を作家と結んでいるケースがほとんどです。

 ですから、今回の『セクシー田中さん』の映像化によるトラブルにおいては、当然、版元である小学館がどう動いたかに興味があります。