「芦原さんの意向はドラマ制作側に伝わっていた」という趣旨の文言が記されていますが、脚本家の相沢友子さんが、「私にとっては初めて聞くことばかり」と2月8日に自身のSNSでコメントしたのを見ると、どう考えても、原作者、脚本家、テレビ局、出版社のコミュニケーションがとれていたとは思えません。
今こそ提言したい
出版界全体で取り組むべき対策
私は、どの出版社もライツやデジタルの専門家に、一度は編集部を経験させるなり、編集部との交流を深めるなどの方策を考えたほうがいいのではないかと考えますが、その程度の改善ではなく、もっと大規模な原因究明と再発防止の対策を練るのがベストではないでしょうか。
出版界は、日本書籍出版協会という出版社全体を包括する団体を持っています。そして、その中に、(1)コンテンツ活用推進委員会(中長期的な観点から、新たな著作物の流通手段を模索し、デジタル化環境への対応を積極的に進め、出版ビジネスの新たな可能性を模索するための調査・研究等を行う)、(2)知的財産権委員会(知的財産権に係わる制度の改正要望に関する事項の検討を行い、出版界の意見の反映を図る)など、各社の専門の社員が集まる研究会があり、それ以外に緊急事態には特別委員会も開催できます。
読者には作者名や作品名には詳しくても、出版社の名前はよく知らないという人が多いと思います。実際には、超大手である小学館、講談社、集英社の意見が大きく反映されるのが、この業界です。この3社は資金力もあり、人手もあります。
また、講談社には野間省伸社長という先進的な考えの社長がおり、小学館は今の出版界の仕組みを全部つくったとも言える相賀昌宏会長がおられます。色々なパーティーに出席して新しい本を紹介しスピーチする、作者への愛情にあふれた経営者です。集英社の堀内丸恵会長は、赤塚不二夫さんを担当したコミックに精通した経営者であり、廣野眞一社長はゲーム事業の経験があります。野間氏、相賀氏はオーナー経営者で、集英社は小学館の子会社ですが、ほとんど親会社に匹敵する売り上げを誇る会社です。
その3社の大物経営者が出席し、今回の件における小学館と日本テレビの担当者に聞き取り調査を行う特別委員会をつくり、今後の再発防止策や、各社が注意すべきライツの現場と編集現場の調整について徹底的に研究することこそ、芦原さんの尊い犠牲に報いることになると私は考えます。
今や、小説、コミック、アニメ、ゲームの担当者が、作家と一緒に次の作品をトータルに話し合う時代になっています。最初からゲーム化を想定し、小説の主人公像や顔、服装まで打ち合わせしている作家もいるのです。出版社もテレビ局も、今回は真摯に組織としての問題点を直視すべきです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)