そして、現在文春の平均実売率は50%くらいで、号によっては数百万円の赤字を出しているものもあると聞きます。これは文春に限ったことではありませんが、1冊完売したくらいで、雑誌の赤字構造は変わりません。そこに訴訟の費用が数百万円かかるとなれば、想像以上に利益は減ってしまうのです。そのため結局、文春以外の週刊誌はみんな事件や政治を扱わない雑誌になり、ヌードグラビアと漫画が中心になってしまいました。

 この状況を知っても、賠償金額が少なすぎると言えるでしょうか。

「賠償額が少ない」は間違い
実は司法の圧迫で増えていた

 そして、多くの弁護士やコメンテーターは、「昔から損害賠償の金額は数百万、高くても1000万だった」とコメントしています。これも実情と違います。

 週刊誌に対する訴訟が増えてきたのは1990年代からです。それまでは訴訟はほとんどありませんでしたが、その頃から1年で数十件という裁判が提起され始めました(今はもっと減っています)。高額ではありませんが、それまで数十万円の賠償で勝訴だったものが、記事の小さな不備を指摘して100万円以上の賠償を求める判決が多くなりました。

 1回につき100万円程度でも、それが複数回になれば、賠償額は年間で見ると極めて多くなり、週刊誌の採算は厳しくなりました。

 以前の記事でも書きましたが、裁判所の上層部には判決を誘導する流れがあります。90年代以降に出された判決には、明らかに週刊誌の報道を抑制しようという意図が見られました。

 なぜなら、私が編集長をしていた時期、大物政治家が週刊誌報道で落選したり、辞任したりすることが頻発したからです。たとえば、田中真紀子元外務大臣(秘書給与疑惑)、山崎拓・自民党幹事長(愛人問題)、福田康夫・自民党官房長官(年金未納)、辻元清美議員(秘書給与詐取疑惑)などで、週刊誌報道以外で辞任したのは島村宜伸農水大臣(郵政民営化解散に反対して辞職)くらいです。