裁判官の独立が本来の司法制度の在り方ですが、この国では法務省の意向が人事で働きます。そして、政治を担うのが必ず自民党という戦後の歴史の中で、立法府と行政府が実質的に同一であるという構造が、政治への忖度を生み、司法の独立を形骸化させてしまいました。心ある裁判官は、国の判断に従う判事たちを「ヒラメ判事」と呼び(魚のヒラメは上にしか目が付いていない、つまり出世しか考えていないということ)、その数がどんどん増えていったという背景があります。

 このように、賠償金額はずっと同じではなく、週刊誌にとっては司法の圧迫により、吊り上げられてきた歴史があるのです。

「謝罪広告」の掲載命令は
先進国で日本だけ

「今回のようなケースでは、外国では高額賠償が普通だ」という議論も出ています。これも、間違いを含んでいます。

 米国では特にそうですが、名誉棄損裁判では原告、つまり名誉を棄損された側が陪審員に対し、報道の内容が事実無根であるかどうかについて立証責任を負います。週刊誌側に立証責任はなく、もし報道事実が間違っていても「悪意の証明」(わざと間違いを書いて立場を悪くしようとする悪意があったと証明すること)がない限り、名誉棄損は成立しません。

 また、謝罪広告の掲載命令を出すのは、先進国では日本の裁判所だけです。賠償金は別として、間違ったことを書いたと思っていないメディアに無理矢理謝罪させるのは、「良心の自由」を犯すものと判断されるのが普通なのです。メディアで「高額賠償」を主張する方々は、その程度のことは知っておいてほしいと思います。

 私は、野中広務氏(元自民党幹事長)が引退されたころ、お付き合いがありました。当時、文春の保守系雑誌『諸君!』が野中氏と北朝鮮の関係を厳しく書いていましたが、廃刊になりました。廃刊が決まった日、野中先生に「『諸君!』が廃刊になりました。先生、気持ちいいでしょう?」と言ったところ、憤然としてこう答えました。