「私はあの雑誌を定期購読しています。なぜなら、京都府議時代、蜷川虎三という共産党系の知事がいて、マスコミは全部知事礼賛。批判していたのは『諸君!』くらいでした。素晴らしい雑誌だと思って読んでいたら、自分が権力者になると、厳しい批判ばかり。しかし、私は権力者たるもの、自分に厳しい意見は必ず聞かねばならないと思って、定期購読をやめていません」
高額賠償を主張する元知事さん、民主主義を守る国の政治家は、こうあるべきではないでしょうか。しかも、あなた方は今、コメンテーターとして報道を守る側で発言すべき立場にいることを、忘れないでほしいと思います。
日本刀と拳銃で脅されて……
記者の実名を出すなどもってのほか
さらに、「記事を書いた雑誌記者の名前や顔をさらせ」と叫ぶ人々がいます。週刊誌記者が日頃どんな危険な目に遭っているか、お話ししましょう。
私の体験で言えば、暴力団員に日本刀で脅されたこと、拳銃を突きつけられたこともあります。朝がけで取材した相手が散歩中のシベリアン・ハスキーのリードを緩め、けしかけられたこともありました。夜中の12時になると、毎日のように自宅に何者かがやって来て、ピンポンダッシュをされたこともあります。
また、若い女性記者が暴力団員から「ねえちゃん、いい話を教えてやるからキスさせろ」と迫られ、とっさの機転で「100万円でも、もらわないと……」と言い逃れをしたら、なんとポケットから100万円を出してきたという話もありました。
報道において、編集長が実名を出すのは仕方がありません。しかし、こうした中で一般記者の実名を出すのは、社員の安全を守る意味でも、会社組織として適切ではありません。SNSなどのコミュニケーションツールが発達した今の世の中、個人の自宅はすぐに割り出され、どんな危険な目に遭うかわからないからです。そうしたリスクを顧みずに、「実名を明かせ」と言っているのでしょうか。
色々述べてしまいましたが、今回は松本人志氏の論争について、「週刊誌側」から意見を述べてみました。最後に『週刊文春』の後輩のみなさん、心の傷に立ち向かおうとしている女性たちを、全力で応援してあげてください。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)