常連客を大事にする理由

 ガリや茶の補充以外にも、初来店時に客が最初に胸ポケットに手を伸ばしたら、客に言われるよりも先にお水を用意する。薬を取り出すのだろうと判断して、先回りするのだ。

 ここまでは、中級店でもやるかもしれない。しかし、高級店のサービスでは、再び同じ客が来店したら、席に着いてすぐにお水をカウンターに置く。客は頼みもしないのに、薬のお水を出してもらうことで、私個人のことを「分かっている」と感じるのだ。一流店では予約の段階で、顔を思い出して食の好き嫌いや特別対応すべきことを確認している。今はITの時代だから、予約ソフトの備考欄に入れておいて他のスタッフと情報を共有することもできる。

 香水や柔軟剤で、匂いのきつい客が来店すると、次の予約時には「満席だから」と断る。これはマナー以前の問題で、そうしないと常連客に対して失礼で、もし再来店を許したら常連客の方がその店を避けるからだ。なお、銀座の高級店では、場を荒らしたくない(上述の香水や、ドタキャンなど)ことから、高級ホテルのコンシェルジュからの予約電話以外は、一見の外国人観光客の予約を受け付けないところもある。コンシェルジュが信用保証となっているのだ。

銀座「すきやばし次郎」では「海外よりお越しのお客様は、ご予約の日時にご来店いただけないことがあり、ご宿泊先ホテルのコンシェルジュを通してのみのご予約とさせていただきます」としている銀座「すきやばし次郎」では「海外よりお越しのお客様は、ご予約の日時にご来店いただけないことがあり、ご宿泊先ホテルのコンシェルジュを通してのみのご予約とさせていただきます」としている 拡大画像表示

 このように、高級すし店は接客を重視し、常連客を大切にする。接客がダメなところは、いい気分で食事ができないのでリピートする常連もつかず、つぶれてしまう。料理がいいのは当たり前で、接客も含め全てにおいて、完璧に気が回らないと常連はつかず、高級すし店はやっていけないからだ。