三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第60回は、麻雀やボードゲームの教育的効果について考察する。
高井さんが麻雀から学んだこと
主人公・財前孝史は道塾学園投資部伝統の合宿に参加する。カジノ経営者や映画プロデューサー、ハッカーなど一癖もふた癖もあるOBたちが現役部員に活を入れる恒例行事で、財前たちは麻雀三昧の日々に突入する。
投資部の合宿で麻雀が中心に据えられているのは、「ボードゲームは教育インフラ」という私の持論と重なる。
我が家にはかなりの数のボードゲーム、カードゲームがある。三姉妹が幼かったころに少しずつ買いそろえた。第一の目的はもちろん、家族で楽しむこと。いわゆる「ドイツゲーム」と呼ばれるジャンル自体、一人で没頭しがちなデジタルのゲームから距離をとって、昔のように家族や友人と楽しむ時間を増やそうという発想から広がったムーブメントだ。
娯楽としての楽しみと同時に、私が密かに期待したのが学校では教えてくれない大事な「知恵」を学ぶ教育効果だった。
大きく分けると、その知恵とは対人の駆け引き、トレードオフへの対処、「良き敗者」になること、の3つだ。いずれも人生において大事なスキルだが、学ぶ機会は少ない。同じ枠組みとルールで勝負を繰り返せるボードゲームは、格好の教材になる。私自身は麻雀からこれらを学んだ。
「良き敗者」たれ
人間対人間の駆け引きが人生において重要なのは言うまでもないだろうが、最近の若い人たちは、生活の中でそうした体験を積む機会が減っているように見える。
兄弟姉妹が減り、学校だけでなく塾や習い事に忙しく、普段のコミュニケーションはメッセージアプリが中心、ゲームと言えばスマホという時代だから、仕方ない面はあるのだろう。早くから家族でボードゲームをやる習慣ができると、駆け引きスキルを少し補えると思う。
トレードオフのさばき方も、見落とされがちだが不可欠の生きる知恵だろう。人生なんて、どちらかしか選べない、あちらを立てればこちらが立たないという状況の連続だ。なのに、学校では「ひとつの正解」があるタイプの問題ばかりを教える。
サイコロなどを使ったある種のゲームは、確率や期待値、「一発逆転を狙うにはここしかない」という勝負所を見極める訓練に最適だ。
そして、私が一番重要かもしれないと思うのは「良き敗者」として振舞う機会をもつことだ。スポーツに取り組んでいる子どもは、そうした機会に恵まれるケースが多い。
勝負が終われば、ラグビーで言うところの「ノーサイド」の精神で、悔しさを抱えつつ、ゲーム自体を一緒に楽しめたことを喜ぶ。仕事でもプライベートでも、勝ち続けることなんてできないのだから、これも学んでおくべき世知だ。
近年の復権で、カードゲームやボードゲームの品ぞろえが豊富な店舗は増えている。どんなゲームから入ったら良いか迷う方は、我が家のラインナップをご紹介したnote「【永久保存版】テーブルゲームは教育インフラだ 総集編」をご参照いただきたい。