30代で東証プライム上場企業の執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)となった石戸亮氏が、初の著書『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)で、デジタル人材の理想的なキャリアについて述べています。
デジタル人材は、ビジネスの現場でどのように求められているのか。
本当に需要のあるデジタル人材として成長するためには、どんなスキルを身につければいいのか。
デジタル人材を喉から手が出るほど欲している企業に迎え入れられ、そこで重用されるには、どんな行動を取ればいいのか。
本連載では、デジタル人材として成長するためのTo Doを紹介していきます。

【CDOの考え】今月、何人のお客様に話を聞きましたか?Photo: Adobe Stock

一次情報は何より大切

 一般的に、顧客の声を収集する部署は組織の枠組みで捉えると限られています。営業部、マーケティング部やカスタマーサポート、あるいは広告代理店やリサーチ会社が消費者の声を聞く。BtoBのテック系ベンチャーであれば、日々顧客と接している営業やサービス開発の責任をもっているプロダクトマネージャーが声を聞く。
 でも、その他の部署であっても顧客の声を直接聞くこと、つまり生の一次情報に触れるのは非常に大事です。扱っている製品が製造業が扱うような有形商材であっても、アプリやサービスのような無形商材であっても同じ。実際に使っている人の声を直接聞くことで、おのずと日々の業務で注力すべきことが見えてきます。

 自社製品の顧客あるいはユーザーは、会おうと思えばいつでも会える。にもかかわらず会わない、あるいは特定の人や特定の部署の人しか会わない状況は、非常にもったいないことです。
 競合製品や競合サービス利用者の声を聞くのも大切です。なぜ他社の製品やサービスを使っているのか。なぜ自社のものを使っていないのか。他社製品と自社製品の「差分」を把握することで、どんなきっかけで他社製品を使うことになったのかが見えてきます。その気付きは当然ながら、自社製品の改善やブラッシュアップに活かされるでしょう。システム部や人事部、財務部であっても、顧客の声という一次情報に触れるというのは重要だということです。

 実はどんな会社でも、まだ会社が小さなうちは、売上拡大に必死なので組織の枠組みや職域に囚われず、どんな部署でもユーザーの声を積極的に聞こうとします。ところが会社が大きくなり、安定的な売上やシェアを取れるようになり、部署の数も増え、役割が明確化されていくと、特定の部門や役割の人以外は顧客の声をだんだん聞かなくなる傾向にあります。

 また、大きな会社になると“自分では”聞かなくなります。特定の担当部門、広告代理店やリサーチ会社に頼ることが悪いとは言いませんが、やはりどこかで自分自身が一次情報に触れていなければ、大事な勘所はつかめません。
 それに、他人が作ったレポートはデータも生の声もきれいに整地されているので、解像度はどうしたって下がっています。メーカーなら、お店に張り込んでユーザーが店頭で何を手にとって買っているのかを観察するだけでも、かなり得られるものがあるはず。

 顧客の声の収集からは少しずれますが、競合他社の動向を一次情報によって把握できる状況にあるかどうかは、デジタル人材として責任のあるポジションに就けるかどうかの鍵、という気がします。
 私がすごい経営者だと思う人は決まって、他の業界はもちろん競合他社にも知り合いがたくさんいます。無論お互いに機密情報は控えますが、なんとなくお互いの状況は察知している。一次情報に触れているからです。
 だから、そういう経営者は業界や市場の情勢を読み違えたりはしません。メディアの報道と実態が違うケースがあることもよく知っています。伝聞情報で構成された報道よりも、自分の目と耳で目の前にいる競合他社の幹部の言葉から伝わるもののほうが、絶対に正確なのですから。

 私自身、一次情報に触れることの重要さは、サイバーエージェント時代に体験しました。当時インターネットビジネスの震源地の多くはアメリカのシリコンバレーにありました。日本のメディアが色々記事化してくれるものの、それは二次情報か三次情報。時間軸に関して半年から1年くらいの時間差でメディアの記事になる。メディア記事を見て、そこから何か事を起こそうとしても、準備などを含めると、その時点で1、2年の差がついてしまっていたのです。だから一次情報にできるだけ近づく。
 理想はシリコンバレーに情報を取りに行くこと。それが簡単ではない場合は、シリコンバレーで働いている人に聞く、英語の一次情報に近いメディアを見る、などです。そこで得た一次情報は値千金です。表面的な情報だけで戦略を描いても、もうその時点でだいぶ時間差ができているのです。

 これは国内の情報でも同じだと思います。最近はSNSや様々なメディアなどで色々な情報を得られるようになりました。新しい技術や競合の情報をネット記事で見る頃には既に半年から1年くらいの時間差のある、旬な情報ではない、さらにはそれは一次情報ではなく、二次情報、三次情報である可能性が高いのです。顧客の声を直接聞くこと、カンファレンスやセミナーに行って直接人とつながることは重要です。一次情報は何よりも大事なのです。

※本稿は『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。