わたしたちはいま、スマホの普及に伴う情報過多とコロナ禍によって多くのストレスを日常的に抱え、「いつも疲れている」「なんとなくダルい」といった「脳の疲れ」が原因の症状が出やすくなっている。
そこで読んでおきたいのが、シリーズ累計28万部を突破しているベストセラー『世界のエリートがやっている 最高の休息法』だ。イェール大で学び、精神医療の最前線である米国で長年診療してきた精神科医・久賀谷亮氏が、「脳疲労」を解消できる「科学的に正しい」脳の休め方をストーリー形式でまとめた本書から、今回は一部を抜粋・編集し、簡単には折れない「強いメンタル」を手に入れるための「3つの方法」についてご紹介する。(構成/根本隼 初出:2021年10月10日)
簡単には折れない「強いメンタル」をつくるために必要な能力とは?
ヨーダ「ナツはレジリエンス(resilience)という言葉を知っているかね?」
レジリエンスについては、ナツも少しだけ調べたことがあった。もともとは「復元力」を意味する物理学の用語だ。負荷によって変形させられた物質が元の形に戻ろうとする力、それがレジリエンスという言葉の基本的なイメージである。
これがポジティブ心理学と呼ばれる分野に持ち込まれ、心にかかったストレスに対処する力、自らの精神を元に戻そうとする力を意味するようになった。レジリエンスの低い心は、一定の負荷がかかると折れてしまう。これを高めれば、簡単には折れない竹のような「しなやかな心」を手に入れることができる――。
「うむ、そのとおりじゃ」。ナツの説明に満足したヨーダは頷いた。「9・11のようなテロや東日本大震災のような災害で生まれる大きなトラウマはもちろんじゃが、より個人レベルでのストレスに直面したときにも、人間のレジリエンスが問われる。レジリエンスとは心の平静を保つ能力であり、その意味では脳の休息の基礎を成すものだと言ってもいい」
レジリエンスを高める方法とは?
ヨーダ「レジリエンスを高めるためには、どんな方法があるか、知っとるかな?」
ナツは待ってましたと言わんばかりに答えた。「楽観性ですよね。楽観的でいることで、脳の前帯状皮質の活動が変化したという研究を読んだことがあります。前帯状皮質はうつ病患者などで問題が見られることが報告されていますから、何ごとも楽観的に、前向きに考えるようにすることが、ストレスに強いしなやかな心をつくるというのは、ありそうな話じゃないでしょうか」
「あとは…人とのつながり、いわゆるソーシャル・サポートがレジリエンスを強めるという話も聞いたことがあります」
「スーパー!! さすがはナツじゃ」。満足気な表情のヨーダが答える。「他人との持続的かつ広範なつながり、あるいは、同じような境遇にある人との支え合いなどが、レジリエンスにプラスに作用すると言われとる」
「また、うつ病になりやすい遺伝子型を持つ子どもが虐待を受けたとしても、人との安定したつながりがある場合には、発症リスクが下がる。つまち、ソーシャルサポートという環境要因が、遺伝子の発現にも影響を与えていると推測されるわけじゃな」
メンタル強化に効果的な休息法とは?
「なるほど」ナツは頷きながら答えた。「レジリエンスは後天的に培うことができ、強化できるというわけですね」
「ふむ、さすがはナツじゃ。ただし……大事なのを1つ忘れておるぞ」
ナツはゴクリと唾を呑んだ。「マ、……マインドフルネス(注)?」
「スーパー!!」ニカッとヨーダが笑った。
ヨーダによれば、レジリエンスの脳科学的なメカニズムは、ニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学の一連の研究で、かなり詳細に解明されているのだという。
レジリエンスが高いと、ストレスを克服できる
ヨーダ「たとえば、こんなマウス実験があるぞ。まず、マウスたちを攻撃性のあるマウスと一定期間にわたって同じケージに入れて(ただし身体的な接触はない)、ストレスで打ちのめされた状態にする。ただ、同じストレスを受けていても、そのあとで、攻撃的マウスに自ら進んで接触できる個体とそうでない個体がおるんじゃ。前者はレジリエンスのあるマウス、後者は心の復元力がないマウスと考えられる」
「そして、このとき引き起こされる脳内メカニズムは、マインドフルネスによるストレス低減の仕組みとかなり似通った部分があるんじゃ」
ナツ「つまり、マインドフルネス瞑想には、レジリエンスを高める効果が期待できるってことですか?」
ナツの質問にヨーダは答えた。「うむ。これまで見てきたような、マインドフルネスによるストレス反応のコントロールやストレスホルモンの調整を含めると、その可能性は十分あるぞ」
(本稿は、『世界のエリートがやっている 最高の休息法』から一部を抜粋し、編集したものです)