私が一番知りたかったのは、家事をしない部屋で暮らせば人は死ぬのかどうか。というのは、家事が軽視されてきた結果、主婦業の役割がとても小さく軽く見積もられ、社会を回すうえでさまざまな問題を発生させてきたことを、きちんと批判したかったからです。

 主婦や主夫が軽く見られるだけでなく、家事の担い手が仕事を続ける前提がない就業環境の職場が、ずいぶん長い間放置されてきました。また、介護や育児といった家族のケアについても、家事と同様軽視されてきたために、出産で退職または転職を余儀なくされる人、介護で同様の選択を迫られる人、そして自分自身のケアである病気・ケガの療養とも両立が困難な人がたくさん生まれてきました。

 家事やケアは、「誰でもできる簡単な仕事」と思われるか、その存在を無視するか。日本には、そういう仕組みが存在していたのです。そして、そうした価値観のもと、ケアのサービスを行う人たちの給料はとても安く設定され、家族を養うことはもちろん、自分で生計を立てるのも困難な場合すらあり、担い手がとても少なくなっています。

 さらに、ジェンダーの問題が絡みついて、女性は高すぎる水準に到達しなければダメと思いやすく、男性は中高年を中心に自分には関係ないと思いがち。社会の中では誰でもやれる簡単なこととみなされやすい、といった先入観が強く人々を縛り、さまざまな問題を引き起こしてきました。しかしその問題に取り組む専門家はほぼいません。

 私の家事研究の出発点は、逆説的ですが私自身が家事に消極的で、ラクになる方法を探したこと。知識がついて「ねばならない」から自由になる間に、家事のコツも覚え経験も重ねて、ラクになり楽しくなってきました。

 もちろん、今回、専門家の話を伺う中で、「私には無理」と思うこともありました。『ひとり暮らしの超基本』では、できる限りラクに快適にできる落としどころを見つけて示したつもりです。