美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、美術知識ゼロの編集者・林が、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』の著者であるご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏に「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく教えてもらいます。

「最後の晩餐」レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」レオナルド・ダ・ヴィンチ 1495-1498年 

裏切り者はどこにいる? 絵を読み解くカギとは

林「あ、この作品も有名ですよね! うわ~こんなに大きな絵だったんですね」

山上「そうなんです。この絵はレオナルド・ダ・ヴィンチ最後の晩餐という絵なんですが、本や画像で見ると大きさが感じられませんもんね。実際には、縦4.2m 横9.1mもある巨大な壁画なんですよ」

林「そうなんですね、実は壁画だったっていうことも知りませんでした(エヘッ)」

山上「はは、そういう人も意外と多いのかもしれませんね。なんといっても壁画なので、ここイタリアのミラノに来ないと見ることはできない、まさに門外不出の名作ですね!」

林「へぇ~。そう聞くとさらにありがたみが増しますね。…それにしても随分と殺風景な部屋に描かれているんですね。それに暗いし…。ここは何のお部屋だったんですか?」

山上「ここは隣のサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に付属する修道院で、この部屋はその中の食堂でした。だから食事にまつわるこのシーンが描かれているというわけですね。」

林「なるほど! 食堂にぴったりのテーマですね。…で、イエス様と弟子たちが食事をしていると…、ただなんか食事の割にはみんな動きがありますね。なんていうか…揉めてる?

山上「素晴らしいです! そこが伝わればダ・ヴィンチも大喜びでしょうね。これは、ただの晩ご飯のシーンではありません。イエスが「この中に私を裏切ろうとするものがいる」と、弟子の裏切りを予言した決定的瞬間なんです。中央の人物が、そう言い放ったイエス。その両側に6人づつに分かれた弟子たちが、それぞれの感情を表現していますね。」

林「確かに! そう言われるとみんな違った感情を持っていそうですね。驚いている人、怒っている人、悲しそうな人もいますね…」

山上「ほんとに。その一瞬の心の動きをとらえたのはさすがダ・ヴィンチですよね。さて、では問題です。この中で、裏切り者のユダはだーれだ?

林「あ! そっか、この中にいるんですよね(汗) えーと…あのー…みんな名札付けてるわけでもないですし、わかりようがないんじゃ…」

山上「いえいえ、もちろんわかります! こういう人物を読み解くカギを「アトリビュート」と言うんですが、ユダのアトリビュートはイエスを売ったことによって得た銀貨の入った袋です。これでわかりますか?」

林「うーん、あ! もしかしてこの人ですか? 頭で言うと左から4番目の人! テーブルに肘をついた右手に白い袋を持っていますよ!」

山上「大正解です! この銀貨袋を持っていることから彼がユダであることが分かりますね」

林「なるほど…。裏切り者がわかったところで一層、迫真の絵に見えてきましたよ。」

山上「ふふ、そうでしょう。当時の修道士たちはその決定的瞬間に立ち会っているような気持ちで食事をしたことでしょうね」

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』を元にした著者の書き下ろしです)