ビッグモーターは買い時!
「世間よし」を示すチャンス

 古来、経営学や経済学では、企業とは、金のシステムであり、人のシステムであるとみる。

 金のシステムとは、財務諸表に表れる、金銭的価値で測定できる事業の形だ。どういう資産を持っているのか。何をどれだけ売ったのか。何にどれだけお金を払ったのか。そして、どれだけもうけたのか。

 一方、人のシステムとは、その企業の中にいる人々の営みのことだ。

 どのような組織を作り、何を考え、どのような技能を用いて、どのような仕事をしているのか。その中には、ものづくりの能力、営業の能力、ブランド力、マネジメント力、イノベーション力などの組織的な能力も含まれるし、組織文化や社内制度も含まれる。法令順守の精神や、ガバナンスの在り方、環境対応方針なども、含まれてくる。

 この人のシステムは、企業の価値を、もともとの金のシステムとしての価値(資産価値)の何倍にも膨れ上がらせる。

 ものづくりやブランドなどの能力は企業の現時点での競争力を高め、法令順守やガバナンス、環境対応は企業の長期存続性を高める。そうした企業の人のシステムが総合的に評価されて、企業としての価値が形成されている。シンプルな構図で描けば以下の通りだ。

伊藤忠のビッグモーター救済にモヤモヤする人は見誤る、「商売人魂」のあっぱれ筆者作成 拡大画像表示

 企業価値=金のシステム×人のシステムという図式を踏まえると、ビッグモーターという会社をどう見れば良いか、伊藤忠がなぜ買収したのか、が見えてくる。

 ビッグモーターの企業価値は、人のシステムの抱える重篤な問題によって、資産価値よりも目減りしてしまっている状態にある。まさに、買い時、だったのだ。

 伊藤忠は、ビッグモーターの保有する買い取り・販売網やオークションシステムを、その本来の資産価値よりも、格安で買うことができた。ヤナセなど自動車分野を含む機械カンパニーが全体の1割強の純利益を上げる伊藤忠としては、ビッグモーターの経営改革が成功しても失敗しても、資産として獲得しておいて損はない取引だった。

 加えて、もし「人のシステム」を改革することができれば、伊藤忠は大きな売り上げ・利益を得ることができるし、あのビッグモーターを改革したのだと、社会的な名声も獲得できる。

 社会的な問題を起こしていた企業を生まれ変わらせるという、「世間よし」を実現する機会にもなる。要するに、ビッグモーターを抱え込むことに、伊藤忠にはデメリットがほとんどないのである。

 こうした条件にある会社は、伊藤忠をおいて他にない。

 他にないということは、他に買い手がつく可能性が低いということであり、お値打ちで買うことができることを意味する。まさしく、伊藤忠の商売機会だった、といえるのである。