伊藤忠商事は3月6日、企業再生ファンドと合同で中古車販売大手ビッグモーターの事業買収を発表した。保険金の不正請求問題などさまざまな不祥事が発覚し、経営難に陥ったビッグモーター。信頼が地に落ちたビッグモーターを救う、伊藤忠の勝算とは。(やさしいビジネススクール学長 中川功一)
伊藤忠のビッグモーター買収に
「商売の精神」を見る
伊藤忠商事といえば、日本を代表する企業の一つである。
2023年3月期は売上高が約14兆円で、最終利益は8000億円を超えた。総合商社の中でも特に就職人気も抜群な、超の付く優良企業だ。
そんな企業の傘下に、ビッグモーターが加わることになる。
2024年3月、伊藤忠はビッグモーターの事業再建に向けた契約を締結したと発表した。ビッグモーターの主要事業を新会社に承継する。
重大な法令違反を多数犯し、廃業もやむなしの会社が救済されるというのだから、複雑な思いを抱く人も少なくないだろう。
しかしながら、そうした感情論を抜きにすれば、伊藤忠の今回の買収はただただ見事という他はない。
買い時を理解し、資産価値のある会社を安く買いたたけたからというだけではない。社会的に機能不全に陥っていた組織を立て直し、「買い手よし、売り手よし、世間よし(三方よし)」の正道経営へと導く機会をもそこに見いだしたわけで、このディールには同社の商売人精神を感じざるを得ない。
私は経営学者として、今回の買収を実に見事な商いだと評価する。そのあたりをもう少し、解説していくことにしよう。