保険金の不正請求問題で経営の立て直しが急務となっている中古車販売大手のビッグモーターに、手を差し伸べたのが伊藤忠商事だ。伊藤忠が中古車ビジネスに参入すれば、収益のサイクルを回そうと中古車販売に力を入れるディーラーにとって脅威となる。特集『崩壊 ディーラービジネス』(全7回)の#5では、伊藤忠の狙いを解明し、業界へのインパクトについて迫る。
ガリバーとオリックスが買収を断念した
ハイリスク案件に伊藤忠が手を出す理由
2023年11月、自動車業界内に衝撃が走った。伊藤忠商事が中古車販売のビッグモーター(BM)の買収を検討すると表明したのだ。
買収には伊藤忠の子会社で、燃料商社の伊藤忠エネクス、中堅・中小企業の再生を強みとする投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズも参画。買収の可能性を検証するため、デューデリジェンス(資産査定)を始めた。
当初、中古車販売店「ガリバー」を運営する同業のIDOMとオリックスも買収を検討していたが、条件が合わずに断念していた。BMは保険金の不正請求や店舗前の街路樹伐採問題などで企業イメージが低下しているだけでなく、訴訟リスクを抱えていることが、両社が買収合戦から撤退した要因とみられる。
BMが抱えるもう一つのリスクが事業の継続性だ。中古車ディーラーはクルマの販売に加え、車検や保険販売の手数料で収益を上げているが、BMは、23年10月に国土交通省から指定自動車整備事業の取り消し処分を受けた他、11月には金融庁から損害保険代理店としての登録を取り消されている。
BMは、日本全国に直営および子会社運営の販売店を約250店舗保有しており、これを買収すれば販売網を拡大できる。ただ、自動車の整備や保険販売による収益は当面、見込めないため、仮に伊藤忠が簿価を大幅に下回る価格で買収したとしても、黒字化するのは容易ではない。
上記のようなリスクを抱える中、伊藤忠はなぜBM買収に名乗りを上げたのか。次ページでは、伊藤忠によるBM再建シナリオと、それによる中古車市場への影響を解明する。