ビッグモーターの「人のシステム」は
再生できるのか

 では、ビッグモーターの「人のシステム」を改革することは可能なのか。

 私はこれも、成功する可能性は決して低くないとみている。それは、昔とは打って変わり、“血の入れ替え”が世間的に広く認められるようになってきているからだ。

 かつて日本では、会社とは人のシステムそのものであった。

 会社は従業員のもので、人は会社の中にコミュニティーを形成し、そこを自分のすみかとしてきた。そんな時代にあっては、経営改革とはまずもって雇用を守ること、組織を守ることが基本で、「やむにやまれず、断腸の思い」でリストラを行うのが常だった。

 だが、企業というものが、金のシステム×人のシステムだとみられるようになった近年、様相はだいぶ異なってきている。

 その資産価値に見合わないだけの成果しか上げられていないならば、人のシステムを大幅に新陳代謝する、いわゆる「血の入れ替え」が、企業再生ではよく使われるようになっている。

 これを聞いて、現代は人よりも金を重視するようになった、寒い時代だ、と考えるのは短絡的だ。「従業員だけでなく、ステークホルダー全体の利益を重視するようになった」とみるのが適切だろう。

 投資家や金融機関だけでなく、取引先、顧客、地域社会、法の秩序や地球環境、そしてもちろん従業員のことも総合的に考えたとき、人のシステムが今のままではいけないとなれば、経営陣を中心に、ドラスティックな入れ替えをすることも必要だと認識され始めている。

 伊藤忠が、ビッグモーターに対してどのようなアプローチを取るのかはまだ分からない。だが、そうした改革もオプションにあるとすれば、再建の可能性は決して小さくないはずだ。

 世論や感情に流されず、商機と踏んで買収を敢行した伊藤忠。まさしく商売人、見事な取引だったと言って良いだろう。