「だって、努力は好きに勝てないから」
ビジネスとして何を選べばいいのか。僕自身、とっておきのアドバイスをもらったエピソードのひとつを、ご紹介しておこうと思います。
会社が傾き、これからについて悩んでいた頃、仕事でロサンゼルスに行く機会がありました。
当時、37歳。偶然にもこのとき、テレビ番組の収録でロサンゼルスに滞在していたのが、仲良くさせていただいていたビームスの創業者、設楽洋社長でした。
一緒に食事をする機会をいただいて、そのとき僕の悩みも聞いてもらったのです。今、会社も家庭もひどい状況にある。人生、かなりボロボロです、と(会社もうまくいっていませんでしたが、家庭もうまくいっていませんでした。僕はこの後、離婚することになります)。
他の人にそんな話をしたのは、初めてだったかもしれません。最後の賭けで、和牛を追い求めています、と。
そうすると、設楽さんから、こんな言葉が出てきました。
「きっとうまくいくよ」
設楽さんはかつて、仲間と一緒にビームスを大きくしてきたら、大手のワールドにユナイテッド・アローズを作られて、副社長以下仲間が25人も別の会社に引き抜かれてしまったことがありました。人生最大のピンチです。これが、37歳だったのです。自分も37歳で大変な状況にあった。設楽さんは親しかった取引先にも仕事を断られ、人生のピンチを迎えた。それが同じ37歳だった。きっと大丈夫だ、と。
そして設楽さんのこの言葉が、僕には忘れられないものになりました。
「だって、好きなことをやるんでしょ。それが一番だから。だって、努力は好きに勝てないから」
設楽さんは無名だったナイキを日本に紹介したり、ファッション業界には欠かせないアイコンです。彼は今でも、仕事をしている感じはしないと言います、ファッションがとにかく好きだから、と。
僕がお勧めするのは、本当に寝食を忘れて、心から好きなものは何だろう、と考えてみることです。グローバルにつながるものであれば、それをやるのが一番いい。今でも僕は、ほぼ毎日和牛を食べます。ツアーに同行するメディア関係者はみんなびっくりしてこう言います。
「浜田さんは本当に和牛好きなんですね」
だって、努力は好きに勝てないですから。
(本原稿は、浜田寿人著『ウルトラ・ニッチ』を抜粋、編集したものです)