「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。

1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる理由

ひとつのキーワードは、「グローバルコミュニケーションの中で通用するもの」

 和牛で僕が取った戦略は、「ハイエンド」を攻めていく、というものでした。ハイエンドの中で、世界最高峰の和牛をブランディングしていくことにしたのです。

 ただし、エリアで分けたり、お金持ちかそうでないか、といった考え方で分けたりはしませんでした。

 ひとつのキーワードは、「グローバルコミュニケーションの中で通用するもの」です。例えば、アートはグローバルコミュニケーションで通用する。しかし、日本の民芸品はグローバルでは瞬時には理解されない。

 ニューヨークでは理解されるけど、パリでは理解されない、というのも、グローバルコミュニケーションで通用するものとはいえません。その意味で、食材ならばコーヒーやワインは、明らかにグローバルコミュニケーションで通用します。

 今、20年ぶりにコーヒーの情報をアップデートして勉強していますが、コーヒーを1杯入れるのに、100万円かけて機材を揃える人たちが世界中にたくさんいるのです。

 世界的に知られる高級オーディオ市場なども、グローバルコミュニケーションですが、受け入れる人が少ない。マーケットが小さすぎてしまうのも、単体のビジネスとして展開するのは難しい。

 なぜロレックスがいまだにマーケットバリューが高いかというと、型が少ないこと、そして機械式時計で大量生産した時計だからです。ワインもそう、ある程度の流通本数がないと、グローバルマーケットでのブランド価値にはなりません。

クリエイティブ・クラスを狙え

 グローバルコミュニケーションの中で、価値と語られるようなものがしっかり見えてきて、受け入れる人がそれなりに多いなら、ニッチでもスケールする可能性をもっています。

 そして極めて興味深いのですが、こうしたグローバルコミュニケーションの価値づけにおいて、「共通した層」というのが、世界中にいるのです。

 例えば、僕はシャンパンや葉巻の仕事をしていましたが、シャンパンや葉巻に強い関心を持っている人というのは、アートも好きなのです。それだけではない、家にもこだわっているし、インテリアにもこだわっている。とにかくクオリティの高いものを、とても好むのです。

 リチャード・フロリダが『クリエイティブ・クラスの世紀』(ダイヤモンド社)という本を書きましたが、価値のあるもの、クリエイティブなものに対してお金を惜しまない、という人がいるのです。

 それは、アートやインテリアなど、目に見えるもの、生活を彩るもの以外の、食も同じ。エンターテインメントも同じです。

 映画も大好きというケースが多い。映画に投資しているのは、決まってクリエイティブ・クラスの人たちです。そういう人たちの自宅にお邪魔したりすると、アートも音楽も食もワインもコーヒーもお茶も、驚くほどのこだわりなのです。

かっこいい生き方をしている人たち。エスプリに富んだクリエイティブにこだわる人たち

 そういう人たちの価値観は、ある意味、とてもはっきりしています。それこそ、中国に行って、「何のビジネスでもいい」「1兆円稼ぎたい」と言って巨万の富を築こうとするのとは、ちょっと違う。

 立派な車に乗り、お洒落な格好をしていても、部屋が散らかっている、というのは許さない、とでも言えばいいでしょうか。

 言葉を換えれば、かっこいい生き方をしている人たち。エスプリに富んだクリエイティブにこだわる人たち。そういう人たちが、世界にはたくさんいるのです。

 生活の質を大切にし、高付加価値な食を評価してくれる、クオリティをしっかり見てくれる人たち。僕がターゲットに据えたのが、まさにこういう人たちでした。

クリエイティブ・クラスの人たちは、コスパを求めていない

 こういう人たちには、コストパフォーマンス(コスパ)はいりません。コスパというのは、自分の尺度で今までの経験軸で語っているコストのことです。クリエイティブ・クラスの人たちは、これを求めていない。

 ましてやグローバルなクリエイティブ・クラスの人たちであれば、なおさらです。

 WAGYUMAFIAの最も高いカツサンドは10万円でした。チャンピオン牛のカツサンド。日本では、「そんなものは誰も買わない」と思っていたようです。

 しかし、10万円のチャンピオン牛のカツサンドは1年分が完売するようになりました。先に予約されていくのです。そのくらいのファンがいる。価値を認めてくれる人が、グローバルにはいるのです。

 逆に、10万円のカツサンドでも、1万円のラーメンでも、その価値がわからない人には、絶対にわからない。だから、わからない人たちに対して、説明は一切しません。それが高いと思っている人たちは、絶対に買わないから。そこに対して、1時間、10時間、100時間使ったとしても、この人たちはお客さまにはならないのです。

 重要なことは、自分たちのクリエイティブを理解してくれる人たちを作ること。それこそ100人作ればいい。例えば、カメラ市場を席巻しているGoProの社長はサーファーでした。サーフィンしながら自分の映像を撮りたい、とあのカメラを作った。

 自分のクリエイティブから生まれたアイデアだったのです。こうしたニッチカテゴリーが大きく飛躍する時代なのです。自分たちのクリエイティブをこそ、意識するべきです。

 間違っても、コスパという言葉に惑わされてはいけません。僕は、日本を飲食やものづくりをダメにしているのは、この言葉だと思っているのです。

(本原稿は、浜田寿人著ウルトラ・ニッチを抜粋、編集したものです)