「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。

器用な日本人が陥りやすいワナ~海外のシェフたちが指摘してくれた日本人が気づいていない盲点Photo: Adobe Stock

海外のシェフたちが指摘してくれた日本人が気づいていない盲点

 和牛ビジネスをスタートするにあたって、僕は海外のシェフたちにもたくさん話を聞きに行きました。日本の高級食材についての印象で、象徴的なエピソードを何度も耳にしました。

「みんな、パンフレットだけ置いていく」
「プレゼンに呼ばれていってみると長ったらしい説明の朗読会だった」

 この食材にはこんな魅力がある。それを記されたものを、ただ置いていくだけ。そういうケースが少なくなかったというのです。

 他には、何人かが集められ、1時間ほど面白くないビデオを見せられて、最後に少し試食するプレゼンテーション会。どうだ、すごいでしょ、とにっこり微笑まれる。

 語学力の問題もあるのかもしれません。一つひとつの店に対して、きめ細かなセールスはしていられない、ということなのかもしれません。しかし、これではなかなか「魅力」「価値」は理解してもらえないでしょう。

海外の目線で編集し直せ

 しかも、さらに問題なのは、「日本人が日本人の目線で作ったパンフレット」「日本人が日本人の目線で作ったビデオ」だったということです。そうではなくて、「海外の目線で編集し直したもの」を提供する必要があるのです。

 世界的に知られるコンテンポラリー・アーティスト、村上隆さんとお会いする機会があり、アトリエでお話をお聞きしました。彼は今、面白い取り組みをされていて、陶器やセラミックの日本人アーティストを集めて、村上さんが海外向けに彼らのことを再編集しているのです。アーティストとしては珍しくご自身のギャラリーもお持ちなのですが、その自分のギャラリーで彼らを売り出しています。

 どんなことをしているのかというと、例えば壺なら、とにかく大きいものを作ってもらう。なぜか。村上さんは、そこにニーズがあることをわかっているからです。実際、世界的に有名な歌手のクライアントがその壺をすべて買っていったそうです。

 日本のマーケットではサイズと用途的にとてもじゃないけど、お世辞でも売れていくとは思えないものが、海外を知り尽くした彼の手にかかると売れるアートへとプロデュースできるわけです。

パッと見て価値がわかることが大切

 海外の目線というのは、海外の人にとって、わかりやすい目線だということ。壺が圧倒的に大きくて面白いものなら、売れていくのです。

 これは、今のSNSやデジタルメディアでも同じです。わからないものを長く説明するのは、やめるべきです。パッと見て価値がわかることが大切なのです。

 そしてもうひとつ、ヒットしたら、そのイメージをずっと固定化させていく。画家のミレーは「落穂拾い」が有名ですが、実は田園風景など、いろいろなものを描いています。しかし、「落穂拾い」がヒットしたら、そこにこだわる。それだけをやっていく。だから、ミレーといえば「落穂拾い」のイメージなのです。

 コンテンポラリー・アーティストとして有名なダミアン・ハーストは、ホルマリン漬けにした死んだ動物の巨大オブジェで有名になりました。それ以降の彼の作品も必ずモチーフがあり、ひと目で彼が作ったものであるということが認識できます。

ヒットしたら、やり続ける

 何度も紹介しますが、機械時計で圧倒的な人気を持っているロレックスも同じ型を作り続けています。戦前のロレックスはいろいろな時計を作っていました。皆さんもご存じであろうロレックスの代表格の潜水用の時計、サブマリーナ。この時計の基本的なデザインはいまだに変わっていません。

 海外の人たちからウケるもの、グローバルにヒットするものというのは、限られたポイントが重要なのです。あれもこれも100個できるよりも、これが1個ズバ抜けている、というものが強いのです。その1個を導き出していくことです。

 塩かけ肉屋のソルト・ベイはフォロワーが30万人ほどでしたが、塩を振っている自分のイメージがヒットしたら、それをずっと固定化させてやり続け、いまや5000万人を超えるフォロワーです。

 ダミアン・ハーストは蝶々のアートが売れたら、それをやり続ける。村上隆さんは独特のアニメライクな花を模したキャラクターでヒットしたら、ずっとそのイメージをやり続ける。

 僕らであれば、手を目の前にかかげて、歌舞伎の睨みをきかせ、そして「いってらっしゃい」と叫び続ける。実はこのジェスチャーに行き着くまでに2年かかっています。しかし、それが僕らの代名詞になった瞬間からずっとやり続けています。

「外国人が考えていること、考えそうなこと」を先読みしていく

 日本人は器用なので、いろいろなことをやってしまいがちです。でも、それでは海外ではダメなのです。何かひとつアイコンとなるイメージを作ることのほうが大事なのです。

 その点で、僕のひとつの強みは、海外に長く住んでいた、ということでした。子どもの頃もそうですし、留学もしていました。だから、海外の目線がわかるのです。日本人としての目線ではなく、外国人の目線で編集ができる。

 言ってみれば、「外国人が考えていること、考えそうなこと」を先読みしていくのです。最もやってはいけないのは、日本人だったら、で考えてしまうこと。それでは、目線が合わないことが多い。

 日本人が驚くことに海外の人は驚かなかったりするし、逆に海外の人が驚くことに、日本人は驚かなかったりするから。

お勧めしないのは、「海外にいる日本人とパートナーシップを組んでしまうこと」

 一人ですべてを考えず、ビジネスのパートナーでもいいし、取引先でも構わない、外国人の力を借りたらいいと思います。今の時代、インスタグラムかYouTubeで英語で発信し、反応を見て確かめるのもいいと思います。実際、僕は結構このテストをしています。重要なのは、外国人の反応をしっかり見る、ということです。外国人の目線で、日本の商材を考えてみるのです。

 逆にお勧めしないのは、「海外にいる日本人とパートナーシップを組んでしまうこと」です。この発想の原点は、「その国を熟知している日本人」と組んだほうが早い、だと思いますが、これは何の意味もない。それをついやってしまうのも、日本人の欠点です。これをやると、どうしても日本人向けの編集になってしまう。外国人には受け入れられないのです。

(本原稿は、浜田寿人著ウルトラ・ニッチを抜粋、編集したものです)