11月に迫る米国大統領選挙で、トランプ前大統領は優勢に戦っている。なぜトランプ氏は支持されるのか。前回に続き、スペシャル版としてジャーナリストの池上彰氏を迎えて最新の世界情勢について語り尽くす。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、ジャーナリスト 池上彰、構成/石井謙一郎)
「能力より忠誠心を重視」
トランプの公約の中身
佐藤 今年11月の米国大統領選挙では、トランプ前大統領の返り咲きが現実味を帯びてきました。
池上 トランプ氏は2023年に、「アジェンダ47」という公約を発表しています。その中身を見ていくと、どんな米国を目指しているかが分かります。
まず「ディープステート(闇の政府)」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。
だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです。
佐藤 かなりの新陳代謝が起きますね。トランプ氏の第一次政権時代のブレーンは、すでに誰も残っていないでしょう。そもそも、副大統領は誰になるのか。
池上 それが注目の的です。指名争いを途中で撤退した候補者はヘイリーを除いてみんな、自分を副大統領にしてほしいようです。トランプ氏の周囲では、黒人や女性にすればバイデン氏に勝てるという議論があって、トランプ氏は考えている状態です。
「アジェンダ47」には、公正取引委員会を大統領の直属にするという項目もあります。特定企業の独占が過ぎると公正取引委員会がモノ申すわけですが、大統領命令で自由にできるようにすると言っています。
佐藤 競争原理の市場に独禁法みたいな縛りを作って介入するほうが、むしろ不公正だという論理ですね。トランプ一族が経営する複合企業が大きくなりそうです。
トランプの主張には
それなり説得力がある
池上 巨大な私立大学への多額の寄付金に税金をかける、という項目もあります。トランプ氏が言うには「有名大学には極左がいっぱいいて、共和党を批判している。課税することによって、大学から極左の連中を追い出す」。
佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です。
池上 子どもの性自認やトランスジェンダーについて教えた教師は、公民権違反などで厳罰に処するとも言っています。
州議会で共和党が多数を占めるフロリダ州で、一昨年7月から性的指向や性自認に関して教えることを禁止する州法が施行されました。通称「ゲイと言うな法」です。あれを国家レベルにして、LGBTQについて学校では触れないということです。
佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている。