「ベアなしが当たり前」の時代が終焉
誰も予想できなかった高い賃上げ率
賃金と物価の好循環は、〈1〉物価上昇が賃金上昇を引き起こす、〈2〉賃金上昇が物価上昇を引き起こす、という2つのパーツから成る。前者を象徴する現象は春闘だ。
下の図1は、春闘での賃上げ率の推移を示したものだ。賃上げ率の低迷は1990年代半ばに始まった。物価の面で価格据え置きが始まったのとほぼ同じ時期だ。それ以降、賃上げ率は毎年2%で、「ベアなし(定期昇給のみ)」が続いた。それが何年も続く中で、ベアなしが世の中の「当たり前」になっていった。
この当たり前を是正し、春闘を再構築しようとする労組も一部にはあった。しかし、そうした動きが労働者の間に広まることはなかった。
また、アベノミクスの一環として始まった官製春闘も、ベアなしを打破する試みだった。しかしこれも大きな成果を上げるには至らなかった。
ところが、23年春に突然、ベアなしが当たり前の時代は崩壊した。図1にあるように、23年の春闘では3.58%と、30年ぶりの高水準の賃上げが実現し、定昇を除いたベアも2%に達した。
そして、昨年の歴史的な高い賃上げ率をさらに上回るのが24年春闘だ。連合(日本労働組合総連合会)が3月に公表した集計結果によれば、全体で5.28%、中小企業の組合に限定しても4.42%と、極めて高い水準になった。筆者の推計によれば、今夏に公表される予定の最終集計は、全体で4.9%になる(図1を参照)。
この高い賃上げで見逃しがちな特徴は、人々の予想を覆すかたちで起きたということだ。