世界が注目するアカデミー賞の授賞式は、毎年のように何かが起き、“炎上”する物騒なイベントでもある。アカデミー賞と人種差別の歴史を写真と共に振り返ってみよう。私たちを大いに楽しませてくれるエンターテインメントやスポーツの世界では、いまだ人種差別が残っている面もある(敬称略)。(著述家/国際公共政策博士 山中俊之)

中国系マレーシア人のミシェル・ヨー
オスカー像の手渡しで「差別」された?

 第96回となる2024年のアカデミー賞の授賞式が3月10日(現地時間)、米ロサンゼルスで開催された。日本勢では宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞を、山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞し、大いに盛り上がった。

2024年アカデミー賞授賞式での山崎貴監督Photo:Arturo Holmes/gettyimages

 その一方、授賞式ではちょっとした異変が起きていた。主演女優賞を受賞した女優のエマ・ストーンが、第95回の主演女優賞受賞者である中国系マレーシア人のミシェル・ヨーからオスカー像を受け取らず、横にいた米国人女優ジェニファー・ローレンスから受け取った。その様子に対して、ソーシャルメディア上で「アジア人差別ではないか」と非難する投稿が相次ぎ、大きな波紋が広がったのだ。

ジェニファー・ローレンスからオスカー像を受け取るエマ・ストーンPhoto:Myung J. Chun/gettyimages

 写真を見ると確かに、ヨーが無視されているようにも見える。

 とはいえその後、すぐにヨーは世間の誤解を解くべく自身のSNSに投稿した。エマとのハグの写真と共に「自分がオスカー像を渡しそびれたので、戸惑ったのではないか。ジェニファーと一緒に渡したかった」などとコメントしている。これにて一応、一件落着となったようである。

 世界が注目するアカデミー賞の授賞式は、毎年のように何かが起き、“炎上”する物騒なイベントでもあると言ったら言い過ぎだろうか。22年には、長編ドキュメンタリー部門のプレゼンターを務めたクリス・ロックが、俳優のウィル・スミスから平手打ちされたことは記憶に新しいだろう。ウィルの妻で脱毛症に悩まされているジェイダ・ピンケット・スミスを、ロックがジョークのネタにしたことにウィルが激高したわけだが、前代未聞の“公開暴力”に世界中の映画ファンが驚愕(きょうがく)した(なお、刑事事件にはならなかった)。

ウィル・スミスから平手打ちされるクリス・ロックPhoto:Neilson Barnard/gettyimages

 さて、24年のアカデミー賞に話を戻すと、エマ・ストーンとミシェル・ヨーの一件は、結果として単なる行き違いであったのかもしれない。しかし同時に、人種差別問題の根深さと、対策に取り組んできたアカデミー賞の歴史を思い起こさせることになった。そこで今回は、アカデミー賞と人種差別の歴史を写真と共に振り返ってみよう。