県と市に補助金を申請し、400万円を調達

 新規創業に使える補助金を探すのにも苦労したが、県と市、2つの補助金を申請して400万円を調達。さらに銀行からの借り入れが1500万円。これに手持ちのキャッシュを800万円ほど投じ、トータル2500万円近い資金を用立てた。

「新しい事業を興せば雇用も生まれますから、最終的には銀行も前向きに融資してくれましたけど、交渉は大変でした。それはそうですよね。まったくの未経験から醸造所を造ると言ったところで、本当にやれるのか疑われるのは当然でしょう(笑)」(宏平さん)

 また、醸造所を0から造るノウハウなど持ち合わせているはずもなく、水道設備や排水などの水回り、引き込みの電気容量や場所、換気扇の位置や防カビ対策などなど、リノベーションにあたり考えなければならないことが山ほどあった。

 なるべく予算を削ろうと、内装を解体する作業は自分たちでやることにした。インスタグラムでボランティアの手伝いを募集したところ、14人もの人が集まったという。想定以上のスピードで作業を進められたのは、ありがたかった。

 開業前から多くの人に支えられ、約3カ月でリノベーションを終えた久保田夫妻。宏平さんは起業にあたり、自分1人だけ住民票を本島に移している。最初は一家全員での移住を想定していたが、単身での移住を決めたのには、次のような理由があった。

「準備を進めている間に子どもが小学校に上がったので、せっかくできたコミュニティを無理に手放させる必要はないだろうと思ったんです。それにもし今後、何らかの理由で学校に行きたくないとなった時に、僕の住所は本島にあるわけですから、こっちの学校に転校することもできます」

 第2の選択肢があると、子どもも自身も安心だというわけだ。かくして、久保田さん一家の近距離2拠点生活が始まった。

「人口250人の島」でビール醸造所を始めた脱サラ夫婦、1年半で知った“夢と現実”集まってくれたボランティアたちと一緒に、古い商店を改装 写真提供:久福ブルーイング本島
「人口250人の島」でビール醸造所を始めた脱サラ夫婦、1年半で知った“夢と現実”久福ブルーイング本島の外観 Photo by S.T.