近距離2拠点生活のメリットとデメリット
飲む人に“幾「久」しく「福」を届ける”との想いを込めて命名された「久福ブルーイング本島」が、記念すべきファーストバッチ(最初の醸造分)をリリースしたのは2022年11月のことだ。
最初のうちは旅行会社と兼業でビールづくりを行っていた宏平さんだが、ほどなく退職。坂出と本島を行ったり来たりしながら醸造作業にあたり、真凡さんもまた、坂出に軸足を置いて育児をしながら、醸造作業をサポートするため頻繁に本島へと渡っている。
せわしない生活に思えるが、本島でのゆったりとした時の流れが、ストレスを霧散させてくれるのだと2人は口をそろえる。しかし、この生活スタイルにデメリットがないわけではない。
「最初の頃は、醸造所まで来てから鍵を忘れてきたのに気づいて、途方に暮れたことが何度かありました(苦笑)。近距離とはいえ、船の便数が限られているため、何か忘れ物をしたまま島に上陸しても、その日はもう何もやれることがないんですよ。大家さんが島外にいるので、鍵を借りることもできないですから」(真凡さん)
何しろハサミひとつ買う場所すらない島だから、必要な材料や道具が1つ欠けただけで、その日がまるまる無駄になってしまう。
一方で、近距離2拠点生活のメリットは「一番は、子どもの生活環境を変えずに、こうして新しいチャレンジができていること」と言う。
「夫婦で同じ仕事をやるにあたり、適度な距離感が保てているのもいいですね。夫が本島の醸造所で作業をしている間、私は坂出でやれることがたくさんありますから、それぞれの時間がキープできるのは、長い目で見ればプラスです」
家族は決して離れ離れになっていない。世帯収入は半分以下になったが、心身ともに健やかでいられる所以だろう。