クラフトビールの勢いが止まらない。マイクロブルワリー(小規模醸造所)の数は、2023年12月時点で全国におよそ740社。これは10年前の3.5倍の数であり、いまも新たなブルワリーが続々と各地に誕生している。さらにクラフトビールが飲める飲食店も急増中。なぜクラフトビール市場ががこれほどの勢いで拡大しているのか? その理由と背景、そして、お店で好みの味をチョイスできる基礎知識をお届けします!(フリーライター&エディター 友清哲)
クラフトビールの歴史は、
1994年の酒税法改正から
まず、「クラフトビール」とはどのようなビールを指しているのか、ご存知だろうか。
実は、これほど当たり前のように使われている言葉でありながら、クラフトビールに明確な定義は存在していない。「craft」を直訳すれば「手技」となることから、「手工芸品のように職人が手づくりしたビール」というイメージがなんとなく浸透しているが、実際それ以外に言いようがないのが実情だ。
ただし、これまで大手メーカーが生産してきた一般的なビールとクラフトビールとでは、はっきりと文脈が異なっている。
長らく親しまれてきたビールはもともと、明治初期に産業として勃興したものである。とりわけ戦時中には、富国強兵政策の一環として官営工場が複数設立し、戦費を調達するためにビールを売って国民から酒税を徴収しようという流れがあった。
一方のクラフトビールの登場は、1994年の酒税法改正に端緒がある。あまり知られていないが、酒造業を司っているのは国税庁であり、それまでは酒税法によってビールの醸造に厳しい制限が設けられていたのである。
具体的には、年間の最低製造数量を「2000キロリットル」とするもので、これは大瓶(※1本=633ml)換算で約316万本分という、とてつもない量だ。これをクリアするには、大瓶を毎日9000本近くも売る必要があり、よほどの資本力がなければ実現できない制約があった。
それゆえ、ビール市場は大手企業の独占状態になっていたわけだが、94年の酒税法改正によって、最低製造数量が一気に「60キロリットル」に緩和。小規模事業者でも参入できるようになったことが、いわゆる「クラフトビール解禁」である。