「人口250人の島」でビール醸造所を始めた脱サラ夫婦、1年半で知った“夢と現実”観光案内所はあるが、観光客はほとんど訪れない香川県の本島(ほんじま) Photo by Satoshi Tomokiyo

人生の後半戦を見据えて、転職や移住など、これまでとは異なる環境に身を投じる人は少なくないだろう。香川県坂出市で暮らす久保田さん夫妻が選んだのは、坂出市と瀬戸内海の本島(ほんじま)、直線距離にしておよそ10km離れた2つの拠点を行き来する、「近距離2拠点生活」だった。夫妻はなぜ、このような生活スタイルを選んだのだろうか――。(取材・文/フリーライター 友清哲)

夫婦で夜な夜な話し合った人生の“次の一手”

 香川県の丸亀港から船で30分ほどの位置に浮かぶ本島(ほんじま)に、夫婦2人で営むクラフトビールの醸造所が誕生したのは、2022年11月のことだった。

 この醸造所を経営する久保田さん夫婦は、香川県坂出市在住。夫の久保田宏平さんはもともと、高松市内の旅行会社に勤務し、多忙な生活を送っていた。妻の真凡(まなみ)さんもまた、育児の傍ら法律事務所で働く日々。それがなぜ、人口250人強の小さな島で醸造所を始めることになったのか。宏平さんに聞いた。

「当時はまだ働き方改革なんて言葉もなく、定時に帰れることはまずありませんでした。それでも職場に不満があったわけではなく、むしろ旅行業界は性に合っていたと思いますが、2人の子どもの顔をろくに見られない生活を、このまま定年まで続けるのかと考えると、次第に疑問を感じ始めたんです」

 一方、妻の真凡さんもまた、家族がそろう時間が十分に確保できない毎日に不満があり、自ずと夫婦で人生の“次の一手”について考える機会が増えていった。夜な夜な夫婦で晩酌しながら、「育児中の母親向けのコミュニティスペースを作ろうとか、ゲストハウスをやろうとか、いろんなアイデアが出ました」と真凡さんは振り返る。

 クラフトビールの醸造所を造ろうというアイデアも、そうした雑談の中から飛び出したものだった。