「うつ」から回復した方々の体験記がいろいろと出版されたり、TV等でとり上げられたりすることが増えてきて、一般の方たちでも患者さんの生の声を聴く機会が増えてきていると思いますが、そこでぜひ着目していただきたいのが、見事な治り方をされた方たちは、まず例外なく、発症前までの自身の「生き方」や「考え方」について、かなり根本的な見直しをされているという点です。私が担当した方々が語った次のような言葉が、その心境をよく表わしたものとして、強く印象に残っています。

――「そもそも幸せになりたくて仕事をしていたはずなのに、いつの間にか会社のために仕事をしている自分になってしまっていた。そのことに、やっと気が付いたんです」

――「これまで、ひたすら世間的に評価されることばかり追い求め、不自然な努力を自分に強いる生活に慣れっこになって、本当の自分らしさなんてすっかり忘れて、かなり麻痺していたんだなとわかったんです」

 このような言葉からもわかるように、「うつ」からの本当の脱出とは、元の自分に戻ることなのではなく、モデルチェンジしたような、より自然体の自分に新しく生まれ変わるような形で実現されるものだと言えるでしょう。repair(修理)のような治療では、どうしても再発のリスクを残してしまう限界があるのですが、reborn(生まれ直し)あるいはnewborn(新たに生まれ直す)とでも言うべき深い次元での変化が、真の「治癒」には不可欠なのだと考えられます。

一番大切な作業が、
本人任せだった!

 抗うつ薬により、うつ症状の脳化学的原因と見なされている脳内物質(セロトニン等)のアンバランスを改善することができるようになってきましたし、認知療法等によって、悲観的に物事を受け取る癖や無理な努力を自分に強いる考え方を修正するための方法論も整備されてきました。「うつ」の状態や内容に応じて、それらのアプローチが不可欠であることも少なくありませんから、決してこれらの治療を軽視すべきではありません。

 しかしながら、さらにその奥に潜んでいる「うつ」の本当の病根が何であるのか、その大切なメッセージを汲み取る作業は、これまでほとんど、患者さん自身にゆだねられていた状況にありました。そのため、その作業の存在に気付き、みずからそれを成し遂げることができた一部の幸運な患者さんだけが自力で本当の「治癒」を達成できたという、いわば運任せ的な状況にありました。

 しかし、「うつ」がこれほどポピュラーになってきた現代に、われわれ精神医学・精神医療の側も、西洋医学という実証的科学の限界にとらわれることなく、この大切な作業をも視野に入れて、手応えの実感していただけるような援助をしていくべきではなかろうかと私は思うのです。

 次回は、「うつ」と呼ばれているものは果たして1つの病気を指しているのだろうか、ということについて考えてみたいと思います。