多くの著名人から話題を引き出し続けるトークのプロ・阿川佐和子。生放送で国会議員のズボンのチャック全開を指摘したり、飛行機内でのシモネタで檀ふみをのけぞらせたりと、阿川サンの言動は天真爛漫そのもの。相手との距離をぐっと縮めるコミュニケーションの秘訣を、ご紹介しよう。※本稿は、『話す力 心をつかむ44のヒント』(阿川佐和子、文藝春秋・文春新書)の一部を抜粋・編集したものです。
カタブツ女優・檀ふみの
百人一首「逢ひみて」解釈は?
檀ふみという名の背の高い俳優がいます。かつて一緒にあちこちを旅しました。あるとき海外へ行く飛行機の中、長時間のフライトにだいぶ飽きてきた頃、ダンフミが私に問うてきました。
「あなた、百人一首って、どれぐらい知ってるの?」
ダンフミは私と違い、学究肌です。自宅のお手洗いに百人一首の歌を張り、妹さんと一緒に一日一首ずつ覚え合っているという。対する私は教養とはほど遠く、百人一首といえば、子供の頃、お正月に親戚の家でかるた取りをするか、坊主めくりをしたほどの記憶しかありません。
「ろくに知りませんよ」
冷たく言い放つと、ダンフミは嬉々として、「じゃ、テスト!この歌を解釈しなさい」。
「はあ?」
「逢ひみての 後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり」
「逢ひみて?って、会うこと?」
「会うっていっても、ただ会うんじゃないのよ、わかってる?」
「なるほどね。で、そのあとの心に比べたら……」
反芻しながら考えて考えて、思いつきました。
「つまり、あれでしょ?わかった!」
「はい、ではお答えください」。
「セックスをしたあとの気分と比べたら、昔はこんな気持いいものだなんて、ぜーんぜん知らなくて損したなあ。って、そういう意味?」
私が答えた途端、ダンフミは、
「げっひいいいいいいん!」
そう叫ぶや、飛行機の座席から転がり落ちたのでありました。
「なんでアンタはそういう下品な解釈しかできないわけ?この歌はね、今までも、会いたい会いたいという気持は深いつもりだったけれど、そんなふうに濃密にお会いしてみたら、今までの会いたい気持なんて、どれほど浅いものだったかを思い知ったという歌なんです!」
つまり、私の言ったこととたいして変わらないんじゃないですか?そもそも「逢ひみて」とは「ただ会うのではない」と言ったくせに、そんなに「げっひいいいいん!」と軽蔑される必要があるのだろうか。なんとも納得がいきません。