こともあろうに「外車」を公用車に選んでひんしゅくを買ったのが、アウディA8を選んだベルルスコーニだった。A8といえば、ジェイソン・ステーサムが運び屋に扮する『トランスポーター』のなかで愛用している車であり、スーパーカーR8のエンジンを積んだアウディの旗艦高級車である。

 なお、公用車の護衛につくイタリア警察の「白バイ」には、おひざ元のドゥカティやアプリリア、モトグッチが採用されるのは稀で、ドイツ製のBMWが歴代選ばれている。

10億を超す世界中の信者とつながる
ローマ教皇が公用車に込める思いとは

 伊ローマにあるバチカン市国のローマ教皇専用の公用車は、教会の必須アイテムである。2019年11月の教皇フランシスコの訪日は、1981年2月、ヨハネ・パウロ二世の初来日以来、38年ぶり、教皇として2度目の来日となった。

 故ヨハネ・パウロ二世は冷戦中に東西陣営の橋渡しをし、異なる宗教間の紛争和解を取り持つなど、超大国とならぶほどの外交力を発揮した。81年に広島と長崎を訪れた際に核兵器廃絶を訴え、「戦争は人間のしわざです」「戦争は死です」と日本語で語った。

 ヨハネ・パウロ二世は初めて「鉄のカーテン」の向こう側、東欧ポーランドから選出されたため、ソ連に抑圧されていた東欧市民を勇気づけた。

 イラク戦争(2003年)に臨む米ブッシュ大統領が議会で「神の加護を」と演説を締めくくったことに対し、「神の名で人を殺すべからず」と苦言を呈した。独ソに祖国を蹂躙された国から就任した教皇だけに、言葉に重みがあった。

 そんな教皇が乗る公用車はイタリア語で「パパ・モービレ(教皇様のお車)」と呼ばれるが、その車種選択にも教皇のメッセージが込められている。

書影『自動車の世界史』『自動車の世界史』(中央公論新社)
鈴木 均 著

 2019年に長崎を訪れたフランシスコ教皇は、トヨタMIRAI(水素で発電する燃料電池車、FCV)の白い特注オープンカーに乗り、環境問題への取り組みの加速を訴えた。

 広島では核廃絶を訴え、相棒にはマツダ3を選び、さりげなく地域振興にも貢献した。

 上級のマツダ6ではなく、中級のセダンを手堅く選んだところに、カトリック的な質素倹約と省燃費へのこだわりが垣間見える。その3も、レンタカー向けの廉価グレードを自ら指名し、車選びは徹底していた。

 現在、EVスタートアップの米フィスカー社が、SUVのオーシャンをパパ・モービレに改修中と伝えられているが、バチカン市国のなかではフォード・フォーカスに乗り、庶民派でもある。