「同じ部屋に2人以上フランス人がいると、意見が相違する」とは、当のフランス人が語る国民性である。そんな国の大統領が選ぶ公用車は、紆余曲折を経て代々変遷してきた。

 1944年パリ解放の英雄、シャルル・ドゴール大統領は、在任中に何度も公用車を変えている。そのなかで最も頻繁に選ばれたのが、シトロエンDS(19と21)である。奇抜なデザインと画期的な機構を備えたDSは、後任のポンピドゥやジスカール・デスタンの寵愛も受けた。

 社会党出身のフランソワ・ミッテランも、恋多き人だった。当初はルノー25と30を採用し、後にシトロエンSM、XMに乗り換えた(なぜかプジョー車は敬遠したようだが)。

 相撲を愛し、親日家として日本でも有名になったジャック・シラク大統領は、パリ市長時代からシャンパン通として知られ、賓客のもてなしは十八番だった。一方、公用車としてはシトロエンSMを「手堅く」選んだ。

 ニコラ・サルコジもプジョー607などの大型セダンと共に任期を全うした。フランソワ・オランド(社会党)はミッテラン以来の「伝統」に回帰し、シトロエンDS5ハイブリッド4、DS5、ルノー・エスパスVを乗り継ぎ、エマニュエル・マクロンはDS7クロスバックとプジョー5008を使用している。

負けず嫌いのイタリア人を逆なで
伊首相がアウディを選んで大炎上

 イタリア人はフランス人と同等かそれ以上に、食とファッションにうるさい人が多い。その負けず嫌いは、クルマやオートバイの運転においても炸裂する。

 車に興味がない人でも、ランナバウトでアウトの大外から他の車を抜き、前に平然と割り込むような運転をする。そんな彼/彼女らは、逆に他の車に割り込まれると、「あれは性能差だ(つまり運転の腕で負けたわけではない)」「今日は車の調子が悪い」と文句を言う。

 イタリア語で車を「マッキナ(英語でマシン)」と呼ぶため、そんな日常の愚痴も「今日はマシンの調子が悪い」と、いっぱしのF1ドライバー並みの響きである。垂涎のランボルギーニやF1常勝のフェラーリを生み出す素地が、草の根レベルに根付いている。

 そんな国の首相公用車は、ランチアの歴代高級車だった。現行は2012年に登場したテージスだが、近年フェラーリのエンジンを積んだ高級車、マセラティ・クアトロポルテも採用され話題になった。