コロナ禍による在宅勤務や生活スタイルの変化などにより、若い人たちの間でつみたてNISA口座を開設する動きが急増。2024年からは新NISAがスタートした。新NISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)の内容から一部を抜粋・公開してきた本連載。その特別編として、なかのアセットマネジメント 代表取締役社長の中野晴啓さんに「投資に関する素朴な疑問や、新NISAを使って具体的にどうお金を増やしていったらいいのか」について、Q&A方式で答えていただいた。新NISAを使って投資や資産形成を始めてみたいという人に向けて、そのポイントをわかりやすく紹介していく。(構成:鈴木雅光、撮影:石郷友仁)

【投資のギモンQ&A】成長投資枠で2000本、つみたて投資枠で282本もあるので正直、選べません。買わないほうがいいファンドってどういうものですか?Photo: Adobe Stock

――成長投資枠で2000本、つみたて投資枠で282本もあるので正直、選べません。買わないほうがいいファンドってどういうものですか?

中野 これは私の本を読んでいただくのが、一番いいかと思いますが、一応、簡単に説明いたしましょう。まず、新NISAは長期投資のための制度であることを、よく理解してください。したがって、長期投資に向かない投資信託は、基本的にやめたほうがいいです。

【投資のギモンQ&A】成長投資枠で2000本、つみたて投資枠で282本もあるので正直、選べません。買わないほうがいいファンドってどういうものですか?中野晴啓氏:なかのアセットマネジメント 代表取締役社長

 では、長期投資に不向きな投資信託とは何でしょうか。

信託期間が無期限のものを選ぶ

 まず、成長投資枠の場合だと信託期間が無期限か、もしくは20年以上あるものとなっていますが、ここはいっそのこと、信託期間無期限の投資信託を選ぶべきでしょう。

 とはいえ、いくら信託期間が無期限のものでも、「繰上償還」というケースがあります。繰上償還とは、信託期間のない投資信託でも、あるいはまだかなり長い信託期間を残している投資信託でも、繰上償還条項に引っ掛かると、受益者の決を採ったうえで、繰上償還に賛成多数という場合は、償還(投資家にお金を返却)されてしまう制度のことです。

 繰上償還条項は、ファンドの受益権口数によって決められているケースが多いようです。たとえば「受益権の口数が30億口を下回った場合」などと、目論見書にも記載されているので、これを確認しておきましょう。

 投資信託は受益権口数を表示していないケースが大半で、大概は純資産総額で表示されています。そのため自分で計算しなければならないのが面倒ですが、簡単なので計算方法を説明しておきます。

 まず受益権口数1万口あたり基準価額が1万4000円、純資産総額32億円、というファンドがあったとしましょう。1万口あたり1万4000円ですから、1口あたりの基準価額は1.4円です。

 次に、純資産総額を1口あたり基準価額で割ります。32億円÷1.4円=22億8571万4285口になります。したがって、「受益権の口数が30億口を下回った場合」が繰上償還条項だとしたら、この投資信託は繰上償還される可能性を考慮する必要があるわけです。

 解約が続いて受益権口数が少なくなると、運用効率は悪化することとなり、同時に投資信託会社としては運用を継続することが事業採算に合わないと判断されることも、繰上償還させる理由のひとつです。

テーマ型投信、分配金の大きい投信は避ける

 その他に、投資信託の種類として買わない方がいいものもあります。たとえばテーマ型といって、「IT」「AI」「環境」「ヘルスケア」「ESG」など、特定のテーマに合致した企業の株式に投資するタイプの投資信託もありますが、これはテーマが陳腐化した時点で運用成績が悪化していく傾向を想定しておくべきもので、そもそも長期投資を前提に設計されていないと考えていいでしょう。

 そして、分配頻度が多く、または分配金の額が大きな投資信託も止めておいたほうがいいと思います。分配金を出せば出すほど、運用資産を取り崩すことになるので、運用効率は確実に下がるからです。

 以上、いくつか事例を挙げましたが、基本的に仕組みが複雑な投資信託は、何となく運用成績がよくなるのではないかなどと期待してしまいがちです。しかし、この手の投資信託で過去、非常に高い運用成績を上げ続けたものはほとんどないに等しいと思います。

 長期投資に大事なのは、シンプルで誰もが納得できる運用手法で運用される、王道的な投資信託を選ぶことなのです。

【答え】
 シンプルで誰もが納得できる運用手法で運用される、王道的な投資信託を選ぶ。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
なかのアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業。セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。
2023年9月1日なかのアセットマネジメントを設立。
全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にする活動とともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。
著書に『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)他多数。
なかのアセットマネジメント:https://nakano-am.co.jp/