圧倒的に面白い」「共感と刺激の連続」「仕組み化がすごい」と話題の『スタートアップ芸人 ── お笑い芸人からニートになった僕が「仲間力」で年商146億円の会社をつくった話』の中で著者・森武司氏が「僕に足りないものをみんな持っている」と語ったのが、FIDIA(フィディア)のNo.2で、Luvir Consulting(ルヴィアコンサルティング)CEOとして活躍する中川裕貴氏だ。中川氏は、FIDIAの年商を60億から100億円に引き上げたレジェンドでもある。その変革の要となったのが人事評価制度だ。今回は、どうやって難事業をやり遂げたのか、中川氏にじっくり聞いた。(構成:陽月よつか)

【60億→100億のレジェンド直伝】みんながやる気になる仕組みをつくる人の共通点Photo: Adobe Stock

人事制度とは「コミュニケーションツール」

――FIDIAで構築した人事評価制度は、どんなものだったのですか?

中川裕貴(以下、中川):まず、FIDIA(当時の社名はSuprieve株式会社)には人事評価制度がなかったんです。当時、すでに社員は600人(外勤と内勤を合わせると1000人超)規模になっていたのに、社長や役員が役職や報酬をその都度決めていました。
人が少ないときは問題は表面化しないのですが、徐々に多くなってくると、問題が出てきます。
人が多くなってコミュニケーションが希薄になってくると、なぜ自分がその役職なのか、その報酬なのか、社員一人ひとりが不満を持ち、モチベーションがガクンと下がり、最悪の場合は退職してしまいます。これはどんな企業でも、人事制度導入前のよくケースです。

つまり、人事制度とは社員一人ひとりとのコミュニケーションツールなんです。ツールがなくてもしっかりコミュニケーションがとれているなら問題ないのですが、当時のFIDIAは、社長・役員と社員とのコミュニケーションが圧倒的に不足していました。

――コミュニケーション不足から、問題が起こってしまったと。

中川:というか、僕は正直、社員が600人もいて人事制度がない会社なんて見たことがなかった。だからそれを知ったとき、よくここまでやってきたなと思いました。逆にこれまでどうやってきたのかかなり驚きましたね。

ただ蓋を開けてみたら、人の入替りが激しく、相当課題があった。社員は会社から何を期待されているのかわからず、どう頑張っていいのかわからない、何を目指していいのかわからないと、わからないことだらけ。自分の報酬も将来のキャリアも全部わからない。
だから、仕組みをしっかりつくって会社側から社員へメッセージを伝えようと始めたのが人事制度構築プロジェクトだったんです。具体的には……

・社員の階層をどう分けるか
・社員の何を評価するのか
・社員に具体的にどういう行動・能力を求めるか
・その行動・能力がどうなったら評価するのか
・その結果として報酬はどうなるのか
・将来的にどうやったら上のポジションに行き、どんなキャリアが待っているか

こういうことを、会社から社員へ伝えるために、人事制度をつくったわけです。

人事制度で最初に決めるべきこと

――人事制度はどうやって構築していったのですか?

中川:人材マネジメント方針、つまり「会社として何を大切にしていくか」を固めるところから始めました。
たとえば採用だったら、即戦力人材を採用するのか、ポテンシャル人材を採用するのか、方針を決める必要があります。
これには一長一短があり、一概にどちらがいいというわけではありません。
即戦力人材はすぐにパフォーマンスを発揮してくれるので短期的な収益につながりやすい。一方、ポテンシャル人材はパフォーマンスを発揮するまで時間がかかる代わりに、会社のカルチャーを素直に吸収しやすい。

大切なのは、会社としてどちらを重視するかです。
その他にも、人材配置なら、いろいろなポジションを経験させるのか、一つの部署を極めさせたいのか。また、報酬なら、評価やパフォーマンスによってある程度差がつく制度にするのか、それとも、ある程度みんな揃って上がっていくようにするのか。
これらを別々に決めていくのではなく、人材をマネジメントしていくための方針を先に固め、その方針に沿って、等級制度はこう、評価制度はこう、報酬制度はこうと一つずつつくっていったのです。

――会社の方針から逆算しながら必要なことを定めていったと。

中川:そうです。会社の方針を実現・体現するためにどんな階層が必要か、それぞれの階層にはどんな能力や役割が必要かを定めていきました。

そこからさらに、各等級でこれだけのパフォーマンスを出せたらS評価、この場合はA評価と決め、それによって報酬はどう変わるのか、どうしたら階層が上がるのかなど、ルール化していったのです。
ただ、ここで注意したのは、仕組みでガチガチに固めないこと。
そうなってはベンチャーのよさがなくなり息苦しくなってしまうので、ある程度の「あいまいさを残した制度」にするのがポイントです。

たとえば、A評価の場合はここからここまで昇給できる。昇格要件は「A評価を2回・S評価を1回取った人のみ、ではなく、A評価を2回取った人は、ビジネスの状況やパーソナリティを汲み取って上司の裁量で昇格させる」などとしました。
前述のとおり、人事制度はコミュニケーションツールです。僕らの場合は、ガチガチに決めておくより、ある程度のファジーさをあえて残しておきました。これがうまくいった一因かもしれません。これは会社によるのでいろいろ試してみてください。

実際の落とし込み段階は……

――どうやって人事制度を社員たちに伝えていったのでしょうか?

中川:これは、実はすごくスムーズでした。
FIDIAの長所は、当時からある程度の役職についている人たち、いわゆるマネジメント層は、すごく求心力があった。だから、各マネジメント層に制度の趣旨や内容を伝えたところ、そこから各責任者がそれぞれ現場にうまく落としてくれたんです。
制度は、現場に落とし込むマネジメント層の信頼、求心力、伝え方などが重要です。そこがうまくいったのはラッキーで、本当にありがたかった。さすが600人を人事制度なしでマネジメントしてきた会社だけあるなと思いましたね(笑)。