3月末、香港ではスパイ行為など国家の安全を脅かす行為を取り締まる「国家安全維持条例」が施行された。ますます香港社会の統制が強化される見込みだが、それとほぼ同タイミングで起きた出来事に香港社会は盛り上がって(?)いる。アラブの王族の一人、通称「ドバイ王子」が香港に5億ドルを投資するというのだ。政府も民間も香港にやって来たドバイ王子を大歓迎したが、あるスクープ記事が出てドバイ王子は国に逃げ帰ってしまった。さらにAI顔認証にかけたところ、ドバイ王子がフィリピンの歌手にそっくりだという話まで出てきた。ドバイ王子とはいったい何者なのか……?(フリーランスライター ふるまいよしこ)
ブルームバーグが「ドバイの首長一族が
香港にファミリーオフィス開設」と報じる
3月19日、香港の最高議決機関の立法会会議で国家安全維持条例が可決された。これは香港の小憲法と呼ばれる「香港基本法」第25条に基づいて制定された公安条例だが、20年前に市民の大規模な反対により一度は撤回されたという、いわく付きのものである。
ただ、20年前には予想もされていなかった「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)がすでに2020年に施行されている。これによって市民たちがほぼ完全に自身の声を政治に反映させるすべを失ってしまったところに、再び同条例の草案が上程されて駆け足で可決された。警察官出身の李家超・行政長官は、その日を「光栄な使命を完成させた歴史的瞬間」と形容し、「今後は経済発展に全力を注ぐことができる」と述べた。
それとほぼ時を同じくして、米ブルームバーグが「アラブ首長国連邦(UAE)のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム首相の甥」のシェイク・アリ・ビン・ラシェド・アール・マクトゥーム氏が、5億米ドルを投じて、香港にファミリーオフィスを開設すると伝えた。
ファミリーオフィスとは、富裕層の家族や一族の資産を運用したり、その管理を行ったりする投資会社のことだ。