政府が富裕層向けに新たな投資優遇政策を打ち出す
香港が中東とのつながりを重視する理由

 世界的にも低税率で知られる香港には、これまでも特に中国の富裕層などがファミリーオフィスを置いてきたが、香港政府は昨年、その顧客層をもっと広い世界へ拡大しようと、新たな投資優遇計画を打ち出した。

 新しい誘致計画では、3000万米ドルの投資資金を運用し、専門職員2人(香港人かどうかは問わない)を常駐させ、年間運営経費が200万香港ドル(約4000万円)以上のファミリーオフィスに対し、その資金を投じて得た株式、債券、その他合法的な投資による利益への税金16.5%を免除することになっている。こうして香港政府では、2025年までに少なくとも200のファミリーオフィスを誘致する計画だ。

 そして政府は、そのターゲットを中東に向けた。最大の理由は、中国が推進する一帯一路政策だ。同政策において、「国際金融都市」香港には世界からの資金プールの任務が振り分けられた。中東は中国にとって非常に重要な地域の一つであり、これまで先進国と渡り合ってきた香港の国際地位を利用してその交流の窓口となることが期待されている。

 もう一つの理由は、中国と米国の緊張関係が続き、それに準じる欧州との関係も今ひとつスムーズではないことだ。このため、中国は欧米以外の地域との関係強化を進めており、中東はさまざまな意味で大きなターゲットとされている。

 香港も2020年の国家安全法制定によって、李家超行政長官を含め政府高官の多くが米国のビザ制裁を受けた。そのため、李長官は昨年11月に米サンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に出席できず、代わりに制裁対象になっていない陳茂波・財政長官が派遣された。

 そんな李長官が就任後の2年間に訪れた外遊先は、中国国内と東南アジアを除けば、昨年3月の中東歴訪のみ。そしてこの訪問を足がかりに中東各国に向けたファミリーオフィス誘致宣言を行ったのである。