いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では、地球の歴史を明かす衝撃的な仮説について述べた一節を本書より特別に公開する。

【知ってた?】数億年前、地球が「まるごと氷で包まれた」衝撃の理由とは?Photo: Adobe Stock

地球の熱々の「クラムチャウダー」

 38億年前から32億年前にかけて、溶けた岩石が地球の内部を移動し、マントルやコアに比べれば卵の殻のように薄い地殻に圧力をかけつづけた。この灼熱の巨大な圧力が、地表に巨大な火山を出現させ、そこからの噴出物が薄い地殻を切り裂いたことだろう。

 32億年前には、「プレートテクトニクス」として知られる地殻の動きが始まった。

 地殻は複数のプレートに分かれ、その下のマントルにある溶岩や液状化した岩石の対流に揺さぶられる。この対流がプレートを動かして大陸を移動させるというのが、プレートテクトニクスの理論だ。これが新しい山や海をつくり、地震や火山噴火を発生させて、やむことなく地球の様相を変化させつづけている。

 クラムチャウダーを入れた鍋がコンロの火にかかっていると想像してほしい。相対的に低いキッチンの室温でスープの表面に膜ができるが、その下では液体がぐつぐつと煮えている。勢いよく泡立つとその膜が破れて、中にある塊を表面に押し上げることがある。ひとことで言えばこれがプレートテクトニクスだ。

地球が「氷」で包まれた
――スノーボールアースの衝撃

 25億年前、大気中の酸素の増加は止まらず、むしろ加速した。海から酸素が放出されて、大気中の酸素濃度は上昇しつづけた。

 22億年前、酸素が大気の上層に入りはじめた。太陽からの熱が、光分解と呼ばれるプロセスで酸素分子(O2)をオゾン分子(O3)に変えはじめた。太陽光がO2を解離させて2個の酸素原子が生まれ、それが別のO2と結合してO3を形成したのだ。

 その結果、O3の層が地球を覆いはじめた。それがオゾン層だ。オゾン層はこれまで地表を焦がしていた太陽光の多くを宇宙空間にはね返した。

 オゾン層は、形成を妨げるものがなかったために、どんどん厚くなっていった。地表に届く太陽熱が少なくなったことで、地球全体が冷えはじめた。

 地球の南極と北極で海が凍り、厚い氷の層が形成されはじめた。氷床は両極にとどまらず、赤道に向かって広がっていった。雪に覆われた白い氷は、面積を広げるにつれて多くの太陽光を反射して宇宙へ送り返した。その結果、気温の低下と地球の凍結が加速し、地球の平均気温はマイナス50℃程度まで下がったと思われる。

 やがて、南北から拡大してきた、厚さが何メートルもある二つの巨大な氷床が赤道で出合い、合体して、地球全体を氷で包み込んでしまった。この状態は「スノーボールアース」(全球凍結)と呼ばれている。

「呼吸」できる生物が出現する

 25億年前から20億年前にかけて、いくつかの形態の微小な生命が、酸素をエネルギーとして利用する能力を獲得した。このプロセスを呼吸と呼ぶ。光合成のように水と二酸化炭素をエネルギーに変え、酸素を老廃物として出すのではなく、呼吸を行う好気性細胞は酸素を取り込み、水と二酸化炭素を老廃物として排出する。そのような微小な単細胞生物が大気中の酸素をむさぼりはじめた。

 20億年前、スノーボールアースはすべての生物種に負荷をかけた。酸素を吸収して生きる新しい生物は、生き残るためにかなり厳しい条件を満たさなければならなかった。その結果、原核生物よりはるかに複雑な単細胞構造を持つ真核生物に進化した。

(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)