いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることまでを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では本書より特別にその一節を公開したい。

【そんなことがあったのか!】地球と月が「同じ1つの星」だった時の大破局とは?Photo: Adobe Stock

惑星がぶつかって「いまの地球と月」に分かれた

 太陽系の初期に生まれた30個ほどの原始惑星は、黙示録さながらの衝突を繰り返しながら、どんどん大きくなっていった。

 45億年前、現在の地球の軌道上には二つの惑星があった。何が起こったかは想像に難くない。

 地球程度の大きさの惑星と火星程度の大きさの惑星――いまではテイアと呼ばれている――が衝突した。

 地球サイズの惑星が、衝突で飛び散った破片をほとんど吸収して自らを再形成した。それが現在の地球だ。

 破片の1.2%は吸収されずに地球の軌道上に流れ出し、そこで結合して月になった。

地球は「灼熱の球」だった

 そのころの地球は、衝突時の火で非常に高温だったうえに、多くの小惑星との核戦争並みの衝突が続いていた。地球が軌道上の物質を吸収しつづけた結果、その重さがもたらす圧力によって地球のコア(核)に熱が発生した。要するに、45億年前の地球はどろどろに溶けていたのだ。何千度もの高温で燃えて泡立つゼラチン状の球――それが地球だった。

 そんな液状に溶融した岩石の球の中を物質は比較的自由に移動し、分化と呼ばれるプロセスが始まった。

 鉄や金のようなもっとも重い部類の元素の多くは、灼熱のスープを通り抜けて地球のコアにまで沈んでいった。鉄は地球のコアに半径3400キロメートルの球をつくり、地球に磁場を生み出した。

 冷めていった地殻に残った重い元素はごくわずかだった。人間が金を探してもなかなか見つからないのはそのためだ。もし、どろどろのマントルやコアにまで潜ることができたら、地表を覆い尽くすほどの金を見つけることができるだろう。

 他方、軽い元素は表面に浮き上がり、ケイ素(地球の化学組成の大部分を占める)、アルミニウム、ナトリウム、マグネシウムによって地殻が形成された。さらに軽い炭素、酸素、水素といった元素は、気体として放出され、初期の地球の大気を形成した。

 しかし地殻の冷却は、後期隕石重爆撃期に小惑星が頻繁に衝突したことでたびたび中断された〔注:小惑星が頻繁に衝突した時期のうち、太陽系の惑星を誕生させた衝突を前期、惑星形成後の衝突を後期隕石重爆撃期と呼ぶ〕。溶けたスープの表面で地殻が固まりかけると、新たな衝突が薄い層を破壊し、地球はそのつど熱くなった。ようやく40億年前頃に衝突が終わって地殻が凝固した。

 この溶岩地獄の中でも、地球に複雑な構造が形成された。テイアが衝突したとき、組み合わせ可能な化学物質はおよそ250種類だったが、分化が完了するころには1500種類以上の化学物質が存在していた。

(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)