2025年11月25日、首相官邸にて、トランプ米大統領との電話会談について、記者団の質問に答える高市早苗首相 Photo:JIJI
高市首相の台湾有事を巡る国会答弁が原因で、中国との関係が悪化しています。しかし、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が高市政権の対中国外交に関する不安を感じたのは、これより前の出来事だったと言います。必要のない緊張を生み出してしまった理由、そして、事態の鎮静化に動いた人物とは――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
高市首相の発言を巡り
悪化する日中関係
中国との関係が悪化しています。中国政府は、日本への渡航自粛を国民に呼び掛け、ようやく再開した日本産水産物を事実上輸入停止にしました。いずれも高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁への対抗措置です。
まず、発言を振り返りましょう。11月7日、就任後初の衆議院予算委員会で台湾有事を巡り、集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」に当たるかどうか、立憲民主党の岡田克也議員が質問しました。
存立危機事態というのは、2015年に成立した安全保障関連法で設けられた概念です。日本と密接な関係にある他国(米国のこと)が攻撃され、日本の存立が脅かされて国民の生命などが根底から覆される、明白な危機を指します。存立危機事態に至れば集団的自衛権を行使できる、という意味を持っています。
高市氏答弁の
「戦艦」の意味
高市氏の答弁は「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだと、私は考えます」というものでした。この中の「戦艦」という言葉を聞いた瞬間に、外交のプロたちにはこれが高市氏の独創的見解だと分かったと思います。戦艦と呼ばれるカテゴリーの艦艇を、現代の中国軍は保有していません。安全保障において戦艦という言葉が使われたのは湾岸戦争が最後で、30年以上も前の概念だからです。つまり戦艦という言葉を用いたこの答弁は、外務省や内閣法制局の官僚が関与していないものです。
歴代政権は、存立危機事態と台湾有事の関係について、明言を避けてきました。高市氏の発言は、自衛隊が米軍と共同して中国軍と戦う具体的な事態を示唆したもので、従来の政府公式見解を明らかに踏み越えています。







