ルートの一つは、まず中国人がノービザで入国可能な南米エクアドルに入り、北上してコロンビアのネコクリに向かう。そこから海を渡って「ダリエン地峡」と呼ばれる密林地帯に入り、約100kmを踏破する。マラリアなどの感染症やギャングの脅威にさらされながら急流を渡る極めて危険なルートで、命を落とした人の遺体も転がっているという。性暴力や強盗などの被害に遭う人も後を絶たない。ジャングルを無事に抜けても、そこからさらに何カ国も通過してメキシコと米国の国境地帯に至る4000キロもの道のりが待っている。
米民放テレビが2月に放送したドキュメンタリーでは、早朝にリュックを背負った中国人の集団が次々と鉄条網の脇をくぐり抜け、難なく米国入りする様子が映っていた。警備当局者もそばにいるが、制止するわけでもない。20歳の男性は40日かけてタイやモロッコ、エクアドルや中米を経由してたどり着き、カリフォルニア州で仕事を見つけたいと話した。コロナ禍のロックダウンで託児所の経営が破綻したという女性や、工場での仕事がなくなり家を売ってやってきたという人もいた。
米国入りした一行は身元調査を受けた後で釈放され、亡命申請手続きに入るという。記者は「移民の多くは『ますます抑圧的になっている中国の政治風土や低迷する経済から逃れるために来た』と話した」と紹介した。
「知的財産を盗ませたら世界一」発言に、
トランプ支持者の「国境の壁」建設への熱い支持を思い出す
だが、急増する中国からの不法移民に対しては批判的な見方も少なくない。保守系メディアの米FOXニュースは2月、この問題を報道した際「中国政府は抑圧的で、市民が庇護を求めて逃れるのは自然なことだ」とする支援活動家らの見解を短く紹介したものの、スパイ行為への懸念を重点的に報じた。
メキシコとの国境を取材した記者はスタジオで、不法入国者の中に中国共産党とつながりがある人物が含まれている可能性を米当局が懸念しているとし、「中国は知的財産を盗ませたら世界一だ」とも強調。国境で取材した不法移民の中国人男性にやりたい仕事を聞いたところ「コンピューター関連だ」と答えたといい「中国政府のために活動する者でなくとも、知的財産を盗む可能性はある」と疑いの目を向けた。経済的事情は亡命理由に該当しない、とも釘を刺した。
女性キャスターも「多くは働くために来たというし、それは本当だと思う、コロナ禍のロックダウンもあったし。でも、不正目的の人を紛れ込ませるのは中国の戦略の一部のようです」と警戒していた。
メキシコからの不法移民といえば、思い出されるのがトランプ前大統領の2016年の選挙戦だ。筆者は当時、米国内でトランプ氏の集会を取材したことがある。しきりに「ビルド・ザ・ウォール!(壁を造れ!)」コールが沸き起こり、不法移民の入国阻止を訴えるトランプ氏への熱い声援が送られていた。工事現場の作業着姿で参加した男性に話を聞くと「壁の建設工事なら任せろ。移民が俺たちの仕事を奪っているのを見過ごすわけにはいかないんだ」と熱弁をふるっていた。仮に中国に厳しい姿勢を取るトランプ氏が大統領に再選されれば、中国からの不法移民問題に強硬な対応を取る可能性もある。