孫正義氏と大槻利樹氏Photo:JIJI(孫正義氏)/ Photo by Motoyuki Ishibashi(大槻利樹氏)

想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第11回。対談相手は、アイティメディア社長で元ソフトバンク社長室長の大槻利樹氏。最側近だからこそ知りえる孫正義氏の喜怒哀楽を惜しみなく語ってくれた。「一番うれしそうだった瞬間」に関する貴重なエピソード、そして一流の経営者から信頼を勝ち取った仕事術も必読だ。(取材・構成/ライター 梅澤 聡)

ビル・ゲイツ氏への独占インタビュー!【6月下旬公開予定】

孫正義から意味不明な指示がきたとき、「信頼を失う人」がとる“初動”とは?
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コントロールできない変数と
孫正義はどう向き合うか

井上 大槻社長は1989~94年に、孫社長の戦略秘書、社長室長を務められましたが、孫さんが弱音を吐く姿を見たことはありますか?

大槻 1度だけあります。90年代初頭にビル・ゲイツと面談したときです。当時ソフトバンクで、ある新規事業を始めていて、成功させるためにはマイクロソフトの協力が何としても必要だったんです。

 その交渉のためにシアトルに向かう直前、孫さんが浮かない表情をしているので、「どうしたんですか? 何か迷っていることでもあるんですか?」と聞くと、「いや、準備は完璧だ。ただ、ビルが『君の提案は素晴らしいけど、僕は君のことが好きじゃないから一緒にやりたくない』って言ったらどうしよう」と言ったんです。

 それが何を意味するかといえば、「自分ができることはすべてやった」という自信の表れでもありますよね。

井上 孫さんが落ち込むときはありましたか?

大槻 基本的には常に笑顔。業績が苦しいときでもニコニコしているんですよ。僕は「こんなに会社の業績が厳しいのに、なんでこんなに能天気に笑っていられるのかな?」と思って見ていたんですが、後に自分が社長になって、その理由が理解できました。

 社長が暗く沈んでいると、会社全体の雰囲気が暗くなってしまう。だからどんなに辛いときもリーダーは苦しそうな姿を見せちゃいけない。やっぱり社長は笑ってないとダメなんです。でも、その孫さんも、不振事業から撤退するときだけは、さすがに落ち込んでいましたね。

井上 一番うれしそうだったときは?