「普通にやれ!」は選手を
興奮状態に導く魔法の言葉

 リーダーの大切な役割はメンバーに期待することである。多くのリーダーが誤解している事実がある。それはメンバーにプレッシャーがかかったとき、「落ち着け!」とアドバイスすること。

 このことに関してハーバード大学のアリソン・W・ブルックス博士は300人の被験者にさまざまな作業を行わせ、実験前に以下のようなメッセージを声に出させた。グループAには「私は興奮(ワクワク)している!」。グループBには「私は不安だ!」。そして、グループCには「私は落ち着いている」。

 するとグループAは数学のテスト、カラオケの正確性、スピーチの説得力などでほかのグループより明らかに優秀な出来映えを示した。つまり、無理に冷静さを保つより、メンバーを興奮させるほうがうまくいくのだ。

 岡田の口ぐせである「普通にやれ!」は、言い換えれば「自分の思うがままにやったらええやん」となる。これが選手を興奮状態に持っていくのだ。

 一方、二流のリーダーは「ここでヒットを打てよ!」と選手にいらぬプレッシャーをかけてしまう。これが選手に不安を与え、たいてい結果はみじめなものになる。メンバーを適度に興奮させて仕事場に送り出すのが、岡田のような一流のリーダーの共通点なのである。

一、二軍の選手70人すべてが戦力
適材適所の原則を貫いた「全員野球」

 岡田のような一流のリーダーは与えられたメンバーでチームを勝利に導くことだけを考えている。

 現状のメンバーの戦力を冷静に判断して適材適所の原則を貫き、彼らが持てる力を十分に発揮できるしくみをつくるのが一流のリーダーの証しである。このことについて、岡田はこう語っている。

「チームは一軍の28人だけで戦っているのではない。一、二軍あわせての70人が戦力だ。だから一軍監督は、二軍も自分の目でしっかり見ておかなくてはいけないと常に思っている」

 将棋はすべての駒を的確に用いてこそ勝ちに結びつけることができる。飛車角だけではとうてい勝てないのだ。歩をうまく活用してこそ劣勢になっていた戦局を逆転できるのだ。歩は金になることができるように、チームの目立たないところで縁の下の力持ちの役割をしているメンバーを、いかにして絶妙のタイミングで投入するか。そこにチームを統率するリーダーの力量が問われるのである。