2023年シーズン、阪神タイガースを18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に導いた岡田彰布監督。そのキーポイントとなった采配、試合を振り返りつつ、「采配力」「見きわめ力」について解説する。組織を成功に導きたいと考えているすべてのリーダーこそ要注目だ。※本稿は、児玉光雄『岡田彰布 眠れる力を引き出す言葉 「初心貫徹」で生きる80のヒント』(清談社Publico)の一部を抜粋・編集したものです。
出塁率と防御率が飛躍的に向上し
阪神はリーグ優勝&日本一に
岡田彰布監督の野球哲学はいたってシンプルである。「与えられたポジションで最高の成果を上げる選手だけがフィールドに立てる」というしくみづくりを構築したことが全選手のやる気を生み出したのだ。
岡田はどの局面で、どの選手を起用するかという采配権をがっちり保持しているが、いったん選手をフィールドに送り出すと、あとは選手の自由意思に任される。
もちろん、このしくみでプレッシャーがかかるのは岡田ではなく選手自身。彼らは必死になって勝利するためのパフォーマンスを発揮しようとするのだ。
岡田のような一流のリーダーほど、「メンバーの能力はすぐには変わらないが、意識なら一瞬で変えられる」という事実を知っている。その典型例は選手に「選球眼の向上」を訴えたことである。
開幕前に岡田は球団幹部と話し合い、四球(フォアボール)の査定ポイントのアップを取りつけている。これによって選手の意識が一瞬にして変わり、打者は「四球でなんとかして塁に出ること」、そして、投手は「四球を出さないこと」に努めたため、出塁率と防御率が飛躍的に向上した。
これこそが阪神をリーグ優勝と日本一に導いた大きな要因である。
「タイミング」を重視した
岡田監督の「ほめ方の極意」
日本シリーズ最終戦を阪神が勝利した。この試合で岡田は先発投手に青柳晃洋を抜擢した。青柳は五回二死まで打者19人を散発4安打無失点と見事にオリックス打線を封じ込め、マウンドを降りた。
2023年シーズンは不振によって2カ月間、二軍での調整を余儀なくされた青柳が、なぜ最終戦を任されたのか。じつは岡田は最終戦までもつれ込んだら最後は青柳にマウンドを任せると決断していたという。事実、監督室に青柳を呼んで「シーズンの最初と最後はお前で締めくくる。思い切っていけ!」と激励した。試合後、青柳はこう語っている。
「練習前に監督室に呼ばれました。開幕は青柳で始まったんだから、最後もいい形で終われるように、楽しんで攻めるところは攻めてやれ、と」
岡田のような一流のリーダーは、ただほめたり、期待したりするだけでなく、それらを発する絶妙のタイミングが来るのを待っている。そして、そのタイミングが来たとき、すかさず「お前にすべて任せた!」という思いをメンバーに伝えるわけである。
ただたんにメンバーをほめるだけでなく、そのタイミングが来るまで我慢強く待つ。この心理法則はリーダーにとって覚えておいていい、現場で使える黄金則である。