「コーチは1年間、選手に教えるな」阪神・岡田監督が語る「最高のリーダー」とは?日本一となり胴上げされる阪神・岡田彰布監督=京セラドーム大阪 Photo:SANKEI

阪神タイガースが、18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一に輝いた2023年シーズン。ファンの間にも浸透した「アレ(A.R.E.)」もまた、流行語大賞に輝いた。岡田彰布監督はなぜ「優勝」を「アレ」と言ったのか?岡田監督の「育成の哲学」から、「リーダーシップ力」も見えてくる。※本稿は、児玉光雄『岡田彰布 眠れる力を引き出す言葉 「初心貫徹」で生きる80のヒント』(清談社Publico)の一部を抜粋・編集したものです。

岡田監督はなぜ「優勝」を
「アレ」と言ったのか?

「2023年シーズンは『アレ』がファンの間にも浸透。オレ自身、ますます言えなくなっていただけに、リーグ優勝した日、ようやく「優勝」と言葉にできたのが、ホンマ、気持ちよかった」(岡田監督)

 岡田彰布監督が優勝を「アレ」と決めたのは2010年のオリックス監督時代のことである。しかし、じつはそれ以前に優勝を「アレ」と使う原因があったという。

 それは2008年のことである。このシーズン半ばで阪神は独走態勢に入る。あるコーチが番記者に向けて「優勝間違いなし」というコメントを発したため、岡田は危機感を持った。

 事実、終盤に巨人の猛追を受け、阪神は優勝を逃す。結局、岡田はそのシーズン後に監督を退くことになる。その苦い体験があったから「優勝」という言葉を封印したのだ。

 チームの成果は、そのチームに所属するメンバー全員の温度によって大きく左右されると私は考えている。チームの温度を高めるだけでモチベーションが上がり、メンバーのパフォーマンスは高まる。

 健全な危機感こそチーム全員が共有すべきものである。優勝を確定するまで健全な危機感を共有することにより、チームが連勝しようが、大勝しようが、浮かれることなく、メンバーはベストを尽くせるのだ。

 ちょっとした油断が、ときには予想外の危機的状況に陥ることがあることを自覚し、メンバーに健全な危機感をあおり続けるのが、リーダーにとっての重要な任務である。

「プラス思考」を排除して
持てる力を最大限に発揮

 カナダのケープ・ブレストン大学の心理学者スチュワート・マッカン博士は1921年から1961年までの歴代のアメリカ大統領の分析を行い、歴史家196名からのアンケートをもとに、それぞれの大統領の功績を得点化した。同時に博士は彼らが置かれた状況の「危機」についても調査した。

 その結果、社会的、経済的、政治的な脅威が高まっていて、いわゆる「危機的状況」で就任した大統領ほど「偉大である」という評価を受けやすくなることを見いだした。

 つまり、政治家にとっては危機的状況に置かれるほど持てる力を発揮しようという起爆剤になるのだ。

 このことに関して、岡田はこう語っている。

「私は、本来、常に最悪のケースを想定している。言わばマイナスからのスタートを考えているわけだ。指揮官はプラス思考ではいけないとも考えている」

 危機的状況とは「ピンチ」ではなく、むしろチャンスであることを岡田は知っているから、一流のリーダーなのである。