19歳3カ月の史上最年少四冠に到達しても、さらに高い場所に昇ることを願いとした。

 藤井の技を支えるのは心と体である。勝利の栄光も敗北の屈辱も、翌日には柔らかな笑顔でリセットする心を持つ。

 学生時代から日課としていたラジオ体操や「プランク」と呼ばれる体幹トレーニングで育んでいる健やかな体も武器とする(たまに「けっこうサボってます」と笑ったりもするけれど)。

 常人なら余韻に酔いしれる場所で、藤井から伝わったのは揺るぎない「心技体」だった。

「これまでとは違う景色はまだまだ遠いのかなと。引き続きそういう景色を目指していきたいです」

 竜王はまっすぐに背筋を伸ばしたまま会見場を後にした。

藤井の独走を許さずに食らい付く
無冠の豊島が意地を見せて勝利

 2人の強者が短期間で繰り返し対戦する――。将棋界では、しばしばそんな現象が起きる。2021年の夏から秋にかけてのそれは、藤井と豊島の戦いだった。

 両者が相まみえた竜王戦七番勝負から1週間余り。将棋日本シリーズJTプロ公式戦の決勝が11月21日、千葉市の幕張メッセで行われた。公開対局で行われるこの大勝負をひと目見ようと、約1200人が集まった。

 持ち時間を使い切ると1手30秒未満で指す早指し戦。リスクが高い手を選びにくいようにも思えるが、盤上では華々しい攻め合いが繰り広げられた。

 先手番を握って角換わりの戦いに誘導した豊島は、中段に放った角のにらみを生かして敵陣に攻め込む。

 これが藤井の意表をついた。「短い時間の中で読みをまとめられなかった」。豊島が95手で勝利し、2連覇を決めた。

 この白星は豊島にとって「意地の勝利」だったと言えよう。叡王と竜王を藤井に立て続けに取られ、3年ぶりに無冠に。21年度はそれまで藤井に3勝12敗と大きく負け越していたが、一矢報いる形となった。

「またタイトル戦で活躍できるように頑張りたい」。対局後、ステージ上の豊島が口にしたその言葉には、ひとかたならぬ重みが感じられた。

 それから1年。豊島はこの間に二つのタイトル戦で挑戦者になった。王位戦七番勝負では藤井に1勝4敗で敗れ、無冠返上には至っていないが、手応えは感じていた。

「棋力向上という意味で前に進みつつある1年という感触です」

 藤井に勝つには、今よりさらに強くならなければいけない。そして、その藤井も進化を続けている。鍛錬の道のりは長く、険しい。